交通事故の患者を受け入れる整骨院・接骨院にとって、「施術証明書・施術費明細書」は自賠責保険の請求に欠かせない書類です。医科の診断書・診療報酬明細書に相当する書類でありながら、書き方をまとまって学ぶ機会は少なく、記載不備は支払いの遅れや患者とのトラブルにつながります。本記事では、損害保険料率算出機構(GIROJ)と損害保険会社の公開資料に基づき、施術証明書の制度上の位置づけ、様式の記載項目、発行時の実務ポイントを解説します。
施術証明書・施術費明細書とは
施術証明書・施術費明細書は、柔道整復師が行った施術の内容と費用を証明する書類で、自賠責保険の請求に使われます。
損害保険料率算出機構の「自賠責保険(共済)損害調査のしくみ」(2026年4月改訂版)では、自賠責保険の損害項目「治療費」の必要書類として「診断書・診療報酬明細書、柔道整復の場合には施術証明など」と定められています。損保ジャパンの「請求のご案内」(2026年6月改定版)でも、柔道整復の場合の提出書類は「施術証明書・施術費明細書」と明記されています。
つまり、医師が発行する診断書・診療報酬明細書の柔道整復版が、この施術証明書・施術費明細書です。表面(施術証明書)が施術の経過を証明し、裏面(施術費明細書)が費用の内訳を証明する、2つの機能を1枚に持つ書類です。
なお、自賠責保険の支払対象となる「治療費」は診察料・入院料などの医科の費用に加えて「柔道整復等の費用」を含み、支払基準は「必要かつ妥当な実費」とされています。
前提知識:自賠責請求の全体像
施術証明書の書き方に入る前に、この書類がどの手続きで使われるのかを整理します。院長が患者から質問を受けやすいポイントでもあります。
自賠責保険は自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づく強制保険で、人身事故による損害のみが対象です。傷害による損害の支払限度額は被害者1名につき120万円で、請求方法には次の種類があります。
- 加害者請求: 加害者側が被害者や医療機関等に賠償金を支払ったうえで、領収証等を添えて保険金を請求する方法
- 被害者請求: 被害者が加害者側の自賠責保険会社に直接、損害賠償額を請求する方法。治療の途中でも発生した費用を請求できます
- 仮渡金請求: 当座の出費にあてるため被害者が請求できる制度(傷害の程度に応じて40万円・20万円・5万円)
また、加害者側に任意の対人賠償保険がある場合は、任意保険会社が自賠責保険分もまとめて支払う「一括払制度」が広く使われています。一括対応の場合、施術証明書・施術費明細書は任意保険会社経由で自賠責損害調査に回ります。被害者請求の場合は、患者(またはその委任を受けた者)が請求書類の一部として提出します。
被害者請求の必要書類一覧
被害者請求(傷害・本請求)で提出する主な書類は次のとおりです(損保ジャパン「請求のご案内」の提出書類一覧表より。●は必須、○は該当時)。
書類 | 区分 |
|---|---|
支払請求書(保険金・損害賠償額・仮渡金) | ● |
請求者本人の印鑑登録証明書 | ● |
交通事故証明書(人身事故) | ● |
事故発生状況報告書 | ● |
診断書・診療報酬明細書(医科受診分) | ● |
施術証明書・施術費明細書(柔道整復の施術分) | ● |
入院・通院交通費明細書/請求意思確認シート | ● |
休業損害証明書、確定申告書(写)など | ○ |
委任状および委任者の印鑑登録証明書 | ○(委任時) |
人身事故扱いの交通事故証明書が取得できない場合は「人身事故証明書入手不能理由書」の提出が必要になります。整骨院として押さえておきたいのは、施術証明書・施術費明細書だけを保険会社に送っても支払いは行われないという点です。損保ジャパンの案内でも、証明書類のみの送付では支払いできない旨が明記されており、必ず支払請求書等とセットで請求される必要があります。
なお、この書類は健康保険(受領委任)の療養費請求とは別の手続きです。健康保険側の療養費支給申請書の書き方は別記事で解説しています。
施術証明書(表面)の記載項目と書き方
様式は損害保険会社所定のものを使用します(複数社の様式を照合したところ記載項目は共通です)。表面の主な記載項目は次のとおりです。
- 施術の種類: 健保・国保/労災/自由/その他から該当を選択。負傷起因(業務上・業務外)も選択します
- 患者情報: 氏名・住所・生年月日・性別
- 初検年月日・負傷年月日: 事故日と初検日の整合が取れているか確認します
- 施術期間・施術実日数・通院実日数: 期間(自〜至)と実日数を記載します
- 負傷名及び部位: 最大4部位まで。部位ごとに施術開始日・施術終了日・転帰(治癒・継続・転医・中止)を記載します
- 負傷の経過: 経過を記載します。指導管理料を請求する場合は指導内容も略記します(様式注記)
- 人体図への図示: 負傷部位を図示します
- 初検時の既往症・既存傷害: なし/ありを選択し、ありの場合は内容を記載します
- 固定期間・固定具の種類: 固定を行った場合に記載します
自賠責の損害調査は提出書類に基づいて行われるため、施術録(カルテ)の記録と証明書の記載が一致していることが重要です。施術録の整備については施術録テンプレートの解説ページもあわせてご覧ください。
施術費明細書(裏面)の記載項目と書き方
裏面は費用の明細です。初検料・再検料・指導管理料・往療料(距離と回数)・整復/固定/初回処置料・特別材料料・後療料・包帯交換料・電療料・あん法料などを、単価×回数で記載し小計・合計を出します。
実務上のポイントは次の3点です。
- 施術証明書・施術費明細書料(文書料)の欄がある: 文書発行の手数料は様式内の専用欄に記載します。自賠責保険では診断書等の発行手数料は「必要かつ妥当な実費」として支払対象とされています
- 請求中/受領済の別: 施術料を「請求中」か「受領済」か、いずれかを抹消して消印します。患者の窓口立替の有無と一致させます
- 通院日カレンダー: 通院日に○印(往療は△印)を付けます。施術実日数・通院実日数との整合を確認します
健康保険を併用した施術の場合は、社会保険への請求額と患者負担(一部負担金・給付対象外)を区分して記載する欄があります。交通事故でも社会保険の利用は可能ですが、その場合は患者から保険者への第三者行為の届出が必要になる点を案内しておくとスムーズです。
発行時の実務チェックポイント
- 時効に注意: 被害者請求は原則、事故発生日の翌日から3年で時効です(傷害の場合)。書類発行の依頼が遅れているケースでは早めの対応を促しましょう
- マイナンバー・保険者番号の黒塗り: 個人番号や健康保険の記号・番号・保険者番号が記載された書類を提出する場合、当該部分を黒塗りしたうえで提出する運用とされています
- 原本提出: 請求書類は原則として原本の提出が求められます。院として控え(写し)を保管しておきましょう
- 受任請求という選択肢: 損保ジャパンの委任状様式では、委任事項「医療費・施術費用のみ」は医師・医療機関・柔道整復師・柔道整復施術所が受任者となる場合に限り選択できます。被害者請求で施術費用部分を院が受任して請求する運用が制度上想定されています。導入時は請求先の保険会社に手続きを確認してください
慰謝料などの相談は弁護士連携で対応する
交通事故の患者からは、慰謝料の金額や保険会社とのやり取りについて相談を受けることがあります。しかし、慰謝料の計算や示談のアドバイス、保険会社との交渉を院が報酬を得る事業の一環として行うことは、弁護士法72条が禁じる法律事務に該当するリスクがあります。
院の役割は施術と、施術内容・費用を正確に証明する書類の発行までです。法律面の質問には「専門家である弁護士に相談できる体制がある」と案内できるよう、交通事故に詳しい弁護士との連携体制を整えておくことが、患者にとっても院にとっても安全です。
まとめ
施術証明書・施術費明細書は、柔道整復における診断書・診療報酬明細書に相当する、自賠責請求の中核書類です。様式の記載項目そのものは難しくありませんが、施術録との整合・実日数の整合・文書料と請求中/受領済の処理など、確認すべき点は多岐にわたります。受付から書類発行までの確認事項をまとめたチェックリスト(無料テンプレート)も配布していますので、あわせてご活用ください。
施術証明書の記載ミスを防ぐ:よくある不備とその対処法
自賠責損害調査は提出書類に基づいて行われるため、施術証明書の記載不備は支払いの遅れや患者とのトラブルに直結します。実務でとくに注意が必要な不備のポイントを整理します。
- 施術録との不一致:負傷名・部位・施術期間などが施術録(カルテ)の記録と一致していない場合、損害調査で照会が入る原因になります。証明書を作成する前に施術録と突き合わせて確認しましょう。
- 負傷年月日・初検年月日のずれ:事故日と初検日の整合が取れていないと疑義が生じます。患者から事故日を正確に聴取し、初検時に記録しておくことが重要です。
- 施術実日数と通院日カレンダーの不一致:裏面の通院日カレンダーに付けた○印(往療は△印)の合計と、記載した施術実日数・通院実日数が一致しているか必ず確認します。
- 転帰の記載漏れ:部位ごとに施術終了日と転帰(継続・中止・転医など)を記載する欄があります。記載漏れは書類不備として差し戻しになる場合があります。
- 原本の未保管:請求書類は原本提出が原則です。院として必ず写しを手元に保管してください。後日、照会や再確認が入った際の根拠資料になります。
また、被害者請求の時効は原則として事故発生日の翌日から3年(傷害の場合)です。書類発行の依頼が遅れているケースでは、患者に早めの対応を促すよう心がけましょう。



