整骨院の自賠責一括対応終了後に自費へ移行する手順と実務のポイント

自賠責の一括対応終了後に自費へスムーズに移行するには、終了の通知を受けた時点から患者への説明・同意書の取り直し・請求切替の3ステップを順番に完了させることが前提になる。

主要データ

一括対応終了を「口頭で聞いた」だけで自費に切り替えると何が起きるか?

見落としやすい論点だ。損保会社から「今月末で一括対応を終了します」と電話連絡が入り、そのまま翌月から窓口で自費精算を始めると、表面上は切替が済んだように見えるが、患者説明と院内記録の両方に空白が生じやすく、あとで問い合わせや異議が出たときに院側だけが説明負担を背負う流れになりやすい。

問題は2層ある。

一つ目は患者への未説明だ。交通事故患者の多くは、一括対応が終了すれば自己負担が発生することを理解していない。突然「今日から実費です」と伝えられれば、納得できないまま精算を拒否したり、その後の来院を止めたりすることもある。

二つ目は施術録・同意書の整理不足だ。一括対応中の施術録と自費移行後の施術録が混在した状態で保管されると、後日の損害賠償請求や示談交渉の場面で書類の証明力が弱まり、弁護士や損保会社から照会を受けた際にも、いつ何が切り替わったのかを筋道立てて説明しにくくなる。

要するに、これは単に請求先を差し替えるだけの話ではない。患者との合意形成と書類管理を同時に進める実務であり、そのどちらかが欠けるだけでも継続してきたケアの流れが途切れ、結果として患者離脱や未収の発生につながりかねない。重要なのは手順だ。

自費移行の全体手順を俯瞰する

まずは全体像を押さえたい。移行作業は大きく5つのフェーズに分かれており、損保会社から終了通知を受けた時点を起点に、確認、説明、書類切替、精算切替、事後フォローの順で進める必要があるため、どこか一つでも抜けると、その後の説明内容や請求処理の整合が崩れやすくなる。

移行作業は大きく5つのフェーズに分かれる。損保会社から終了通知を受けた瞬間を起点に、以下の流れで進める。

フェーズ

タイミング

主な作業

1. 終了通知の確認・記録

通知受領当日

終了日・担当者名・連絡手段を書面で残す

2. 患者への説明と合意形成

終了日の1〜2週間前

費用負担の変化・継続施術の意思確認

3. 自費同意書・施術録の切替

終了日の前日まで

新しい同意書の取得・施術録の区分記載

4. 請求・精算の切替

終了日の翌施術日から

窓口精算・領収書発行・保険(健保/国保)適否の確認

5. 事後フォロー

移行後1〜2か月

来院継続の確認・後遺障害申請の補助・示談後精算の確認

順番が重要である。5フェーズを飛ばさず踏むことで、患者への説明がぶれにくくなり、書類の整合も保ちやすくなるため、結果として継続来院率の維持にもつながっていく。各フェーズを以下で確認する。

フェーズ1:一括対応の終了通知はなぜ「書面で残す」必要があるのか?

起点になるのは記録だ。損保会社の担当者から電話で「今月末で一括終了」と伝えられたとき、その場で理解したつもりになって終える院は少なくないが、院内に残る証拠が乏しいままだと、後に示談や訴訟の局面で「いつ、誰が、どの理由で終了を伝えたのか」を示せず、説明の主導権を失いやすい。

自賠責保険の傷害部分の支払限度額は120万円(国土交通省 自賠責保険・共済ポータルサイト「よくあるご質問」(支払限度額))であり、この上限に達した場合や、過失割合・症状固定の判断を理由に一括対応が終了するケースがある。どちらの理由かによって、患者が次に取るべきアクションは変わる。

終了通知を受けたら、次の情報を院内記録に残す。

  • 終了日(施術日ベースで明確にする)
  • 終了理由(損保会社が告げた文言のまま記録する)
  • 担当者名・所属部署・直通連絡先
  • 書面(FAX・メール)での通知を別途求めた場合はその写し

口頭のみで終了を告げてくる損保担当者も一定数存在する。その場合は「書面でも確認をお願いします」と依頼し、難しければ院側で「○月○日、○○担当者より電話にて一括対応終了の連絡あり」と日付入りで施術録の備考欄に記載する方法でもよい。短い一文だが、後日患者から請求の経緯を問われたときや、第三者から照会を受けたときの支えになる。記録は防波堤だ。

フェーズ2:患者への説明で失敗しないには?

説明の時期が重要になる。患者説明は終了日の1〜2週間前に行うのが現実的であり、前日や当日に伝えると患者は準備する時間を持てないまま費用負担の話を受けることになるため、不信感が生じやすく、そのまま来院を中断する流れにもつながりやすい。

説明時に伝えるべき内容は以下の4点に絞る。

  1. 損保会社から一括対応の終了が通知されたこと
  2. 終了後の費用負担の仕組み(全額自費か、健保・国保へ切り替えるか)
  3. 健保への切替を選ぶ場合の手続き(健保組合への届出・接骨院受診の可否確認)
  4. 継続施術を希望するかどうかの意思確認

誤解は少なくない。たとえば「交通事故後は健保を使えない」と患者が思い込んでいることはよくあるが、加害者の過失が100%の10対0案件では健保の使用に一定の制限がある一方で、双方に過失がある事案や患者自身が原因の場合は、健保組合への届出を行ったうえで健保を使えるケースもあるため、一律に否定も肯定もせず、各組合へ確認してもらう前提で案内する必要がある。

このフェーズでは、患者が弁護士特約を持っているかどうかの確認も欠かせない。弁護士特約が使える場合、後遺障害申請や損害賠償請求を弁護士へ委任できるため、患者の不安が和らぎやすく、院としても「必要に応じて弁護士への相談をご検討ください」と伝えるだけで、説明の受け止められ方が大きく変わることがある。丁寧さが効く。

フェーズ3:自費同意書と施術録の切替手順

ここで区切りを明確にする。自費移行後に最初に整備すべきなのは同意書の取り直しであり、一括対応中の施術は損保会社との合意を前提に進んでいたのに対し、自費施術は患者との直接合意に切り替わるため、費用負担の主体も説明責任の置き場も変わることから、新しい同意書を作成して患者の署名を得る必要がある。

同意書に記載すべき項目の骨格は以下の通りだ。

項目

記載内容の例

施術開始日

自費移行の初日

施術内容・部位

継続している患部(例:頸部・腰部)

施術料金

1回あたりの金額・支払い方法

キャンセルポリシー

前日までの連絡等

個人情報の取り扱い

施術録の管理・第三者提供の範囲

施術録については、一括対応中の施術録と自費施術録を日付で明確に区分する。施術録は施術が完結した日から5年間の保存が義務付けられており(厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費について(通知)」)、事後の損害賠償請求、後遺障害申請、訴訟において証拠として照会されることがあるため、一括対応期間と自費期間が混在した記録では、照会時の説明が煩雑になりやすい。

実務では明記が肝心だ。施術録には一括対応終了日、終了理由、損保会社担当者名を備考として記載し、翌施術日から「自費施術開始」と明記する。紙ならページを分け、電子カルテなら区分フラグを立てる形が望ましい。曖昧さを残さないことだ。

フェーズ4:請求・精算の切替で見落としやすい注意点は?

受付で詰まりやすいのがこの工程だ。自費切替後の請求は、損保会社向けの一括請求から患者への直接精算に変わるため、支払先が変わるだけに見えても、実際には料金説明、証憑発行、保険切替の運用が同時に動き出し、そのどれか一つでも準備不足があると現場の流れは止まりやすい。

1. 料金設定の明示
自費施術の料金は事前に患者へ明示しなければならない。料金表を待合室に掲示する、あるいは施術前に書面で渡す形が基本だ。特定商取引法の継続的役務提供に該当する場合はクーリングオフへの対応も必要になるため、顧問弁護士や社会保険労務士へ確認を入れておくのが安全だ。

2. 領収書の発行
自費施術でも領収書の発行は必要だ。領収書は患者が確定申告(医療費控除)に使う場合があるほか、後日の損害賠償請求で実費の証明書類として機能する。施術内容・金額・日付・院の名称と所在地を明記する。

3. 健保切替の場合のレセプト管理
患者が健保・国保への切替を選んだ場合、受領委任払いの対象となるかどうかを確認する。交通事故の場合、健保組合によっては「第三者行為による傷病」として届出を求め、審査が通るまでの間に返戻が来るケースがある。返戻が来ても慌てず、再請求の手続きを踏みつつ、柔整審査会の審査対象にもなることを踏まえて、施術録の記載と請求内容の整合を事前に確認しておくことが重要になる。

任意自動車保険の対人賠償責任保険における支払件数は2024年度で317,836件(損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2024年度統計)第14表)に達しており、交通事故患者が保険と自費の間を移行する場面は決して特殊ではないため、健保切替の実務に慣れておくことは、整骨院経営において避けて通れない課題となっている。

フェーズ5:自費移行後の事後フォローで何をすべきか?

移行後の運用も軽視できない。自費負担が発生した直後の1〜2か月は、患者の来院率が下がりやすい時期であり、費用面の心理的ハードルが上がることに加えて、「もう大丈夫かもしれない」という自己判断も重なりやすいため、何も働きかけがないままだと来院中断が起こりやすい。

来院間隔が開いてきた患者に対しては、リコール連絡(電話・SMSのいずれかで院のポリシーに沿って)を1〜2週間以内に入れる。ただし、無理に来院を促す趣旨ではない。「症状の経過確認」という位置づけで声をかける。たとえば「前回の施術から○日経ちましたが、症状の経過はいかがですか」という確認連絡で十分だ。

後遺障害申請が絡む患者については、施術録が後遺障害等級認定の補足資料として使われることがある。患者が弁護士や損保会社から「施術証明書」「施術証明・施術費明細書」の発行を求めてきたときに、すぐ対応できる体制を整えておきたい。書式は損保各社や弁護士事務所によって異なるため、依頼を受けた段階で様式を確認してから作成するのが確実である。

示談成立後に、患者から「あの期間の自費分を損保に請求したい」と相談されることもある。示談後に院から損保会社へ直接請求することは原則できないため、患者自身が損害賠償の一部として請求する流れを案内し、そのうえで院は正確な領収書や施術証明書の発行で支える立場に回るのが実務的だ。役割分担が大切だ。

移行に必要な書類・ツールと前提条件の整理

準備不足は運用停止につながる。自費移行を円滑に進めるには、現場で使う書類とシステム設定を事前に揃えておくことが欠かせず、説明、同意、請求、証明のどの場面でも必要書類が足りないと、そのたびに対応が止まるため、前提条件とあわせて一覧で把握しておくべきである。

自費移行をスムーズに進めるための前提条件と、手元に用意しておくべき書類・ツールを整理する。

カテゴリ

内容

備考

書類

自費施術同意書(独自様式)

料金・施術内容・キャンセルポリシー記載

書類

施術費明細書(自費用)

損害賠償請求の証拠書類として機能

書類

領収書(消費税区分明示)

医療費控除・損害賠償請求に対応

書類

施術証明書(様式は依頼元に確認)

後遺障害申請・弁護士対応で使用

院内掲示

自費料金表

待合室への掲示が必須

システム

電子カルテ・レセコンの区分設定

一括対応期間と自費期間を区分できるか確認

外部連携

顧問弁護士・社労士の連絡先

特商法・健保対応の相談窓口として

前提条件として押さえておきたいのは、一括対応の終了と症状固定は別物であるという点だ。実務では一括対応が終わっても症状が残っているケースは珍しくなく、しかも症状固定の判断は医師が行うものであるため、院側が独自に「症状固定したので施術終了」と判断することはできない一方で、患者が継続を希望し症状が続いているなら、自費で施術を継続すること自体は可能である。

現場で応用するときに効く判断基準

現場では例外対応が避けられない。教科書通りに進まないケースが多いからこそ、口頭通知、支払困難、健保返戻、弁護士介入といった頻出場面ごとに、何を確認し、何を記録し、どこまで院で対応するのかをあらかじめ切り分けておく必要があり、その準備の有無が後の混乱を大きく左右する。

よくあるのが「一括終了の通知が口頭しかなく、書面が来ない」という状況だ。この場合、院側で通知内容を記録したうえで、損保担当者へメールで「先ほどのご連絡の内容確認です」として終了日・終了理由を文字で送り、返信を保存する。これで事実上の書面確認になる。

また「患者が費用を払えない」と申告してきた場合、院として費用の立替や分割払いを提案することは可能だが、損害賠償請求が解決した際に患者が損保から受け取った金額から精算する旨を書面で合意しておく必要がある。口約束だけでは弱い。示談後に精算されず、トラブルになることがあるためだ。

健保切替を選んだ患者が健保組合から「第三者行為の届出が必要」と言われ、届出完了までの間に返戻が来るケースでは、患者に一時的に全額自費で立替払いしてもらい、健保からの給付が確定した段階で患者へ返金する対応、いわゆる健保立替精算も選択肢になる。ただし、この運用は健保組合や院の方針によって異なるため、事前に担当窓口へ確認しておくことが欠かせない。

弁護士特約が使える患者では、弁護士が介入した段階から施術証明書の発行依頼が弁護士事務所経由で来ることが多い。この場合、院は患者の同意を確認したうえで弁護士事務所と直接やり取りする形が実務上の主流であり、患者の代理人への情報提供として適切な同意が取れていれば、個人情報保護上の整理もしやすい。

令和7年(2025年)の交通事故負傷者数は338,508人(警察庁交通局「令和7年における交通事故の発生状況について」(2026年2月26日公表))に達しており、交通事故対応を得意とする整骨院にとって自費移行の手順習熟は直接的な経営課題である一方、ここを仕組み化できる院では患者説明から請求管理までの流れが安定しやすく、継続来院の維持という面でも差が出やすい。実務力が問われる。

次にやるべきこと:まず終了通知の記録フォームを一枚作れ

着手点は明確である。ここまで5つのフェーズを見てきたが、今日すぐ始められるアクションとして優先度が高いのは、「一括対応終了通知の記録シート」を院内に一枚用意することだ。A4一枚で足りる。終了日、理由、担当者名、連絡手段、患者への説明予定日を書き込む欄を作れば、フェーズ1の抜け漏れが減り、その後の説明や書類切替も連動して進めやすくなる。

その次は標準化である。記録シートができたら、患者説明のトークスクリプトも整えたい。「損保会社から一括対応終了の連絡をいただきました。今後の施術費用についてご説明させてください」という一言を起点に、費用、健保切替、弁護士特約の3点を案内する流れをスタッフ全員が共有できる状態にしておけば、院長だけに説明負担が集中しにくくなり、自費移行時の患者離脱も抑えやすくなる。仕組みで回すべきだ。