整骨院における「院長」と「管理者」の違いとは、前者が院の経営責任・対外的代表を担う役職名であるのに対し、後者は柔道整復師法第19条の2に基づく法定の施術所管理責任者であり、両者は同一人物が兼務する場合と分離する場合がある、という制度上の区別のことです。
主要データ
- 就業柔道整復師数(令和4年末現在):78,827人(厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」)
- 柔道整復の施術所数(令和4年末現在):50,919か所(厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」)
- 第34回柔道整復師国家試験合格率(2026年3月):71.5%(厚生労働省 第34回柔道整復師国家試験の合格発表について)
「院長と管理者は同じでしょ」――その思い込みが行政処分を招く
見過ごせない点だ。都内で多店舗展開を進めていたある整骨院グループでは、2号店の開設時にオーナーである柔道整復師が「院長」として名刺を作成し、内装工事業者や患者への説明でも「院長が管理しています」と案内していたが、施術所の開設届には現場に常勤していない別の柔道整復師を「管理者」として記載していたため、肩書と実態のずれがそのまま届出上の問題へ発展した。
その後、地方厚生局の個別指導で実態が明らかになった。管理者不在を指摘されたのである。管理者が施術所に常勤していなかったため、療養費の支払いが一時停止となり、売上の3割超が数か月間入金されない事態に陥った。
「院長」と「管理者」を曖昧なまま運用するリスクは、単なる表現上の混同にとどまらず、届出・受領委任・資金繰りへ連鎖しうるものであり、経営上の役職と法的義務を負う職務を同一視したまま開業や多店舗展開を進めると、想定以上に大きな経営リスクへつながりかねない。軽い話ではない。
「院長」と「管理者」それぞれの定義はどう違うのか?
まず整理したい。「院長」は法律上の定義を持たない。院内外に向けた対外的な肩書であり、経営責任や施術方針の最終決定権を示す慣用的な役職名として使われるため、オーナーが名乗る場合もあれば、雇用した柔道整復師に「院長職」を与えて現場を任せるケースもある。つまり、院長は経営・マネジメント上の概念である。
一方、「管理者」は柔道整復師法第19条の2に明確に規定された法定の責任者だ。施術所ごとに1名の柔道整復師を管理者として置かなければならず、その管理者は当該施術所の施術に関する業務を適切に管理しなければならないうえ、受領委任の取扱いにおいては地方厚生局への施術管理者届も必要となっている。
法定管理者に課される主な要件は以下の通りだ。
- 柔道整復師の資格保有者であること
- 当該施術所に常勤していること(非常勤は原則不可)
- 施術録の管理・療養費請求の適正管理に責任を負うこと
- 受領委任の取扱いにおける「施術管理者」として地方厚生局に届出を行うこと
- 2018年(平成30年)4月から、受領委任を取り扱う施術管理者の届出には実務経験と研修修了が必要です。実務経験の期間は届出時期に応じた段階制で、2024年4月以降の届出では3年です(厚生労働省 保険局「施術管理者の要件について(周知のご依頼)」(平成30年1月16日事務連絡))。
ここも押さえたい。施術管理者研修の要件は2019年以降に段階的に強化されており、制度運用は通知の更新によって細部が変わりうるため、過去の理解のまま判断するのではなく、現行制度の詳細を地方厚生局の最新通知で確認する姿勢が欠かせない。確認が前提だ。
なぜ多店舗展開で「院長・管理者の分離」が頻発するのか?
背景は人員構成にある。令和4年末時点で柔道整復の施術所数は50,919か所、就業柔道整復師数は78,827人であり、単純計算では施術所1か所あたりの柔道整復師は1.5人強という水準になるため、多店舗展開を狙うオーナーにとって、各院で管理者要件を満たす常勤人材を確保する難易度はもともと高い。
新たな施術所を開設しようとしても、法定の管理者要件を満たす柔道整復師を常勤で確保するのは簡単ではない。人手の問題であり、同時に制度運用の問題でもある。
その結果として起きやすいのが「名義貸し」だ。実際には別の場所にいる柔道整復師を管理者として届け出るケースは、短期的には体制を整えたように見えても、柔道整復師法違反に当たるだけでなく、受領委任取扱規程に基づく取扱いの取消し処分につながる可能性があり、保険請求ができなくなった場合の経営的ダメージは非常に大きい。
多店舗展開における管理者の確保は、採用戦略の中心に置くべきテーマである。単なる人手不足では片づかない。
院長と管理者を分離して運用する場合、どんな体制が現実的か?
整理の軸は明快だ。「院長=管理者」の1人体制は最も整理しやすく、法的リスクも比較的低い。1院のみを経営する段階ではこの体制で問題化しにくいが、オーナーが経営に専念して現場を任せる局面や、2号店・3号店を開設する局面では、役割分担の設計を避けて通れない。
この場合、以下の2パターンで整理すると判断しやすい。
パターン | 院長 | 管理者(法定) | 主なリスク |
|---|---|---|---|
A:兼務型 | オーナー柔道整復師 | 同一人物が兼務 | 本人が常勤できない場合に法的問題が発生 |
B:分離型 | オーナー(経営専任) | 別の常勤柔道整復師 | 管理者の離職時に施術所の継続が困難になる |
分離型を選ぶなら、管理者となる柔道整復師に一定の待遇・権限・キャリアパスを用意しなければ定着しにくく、役割だけを増やして処遇が伴わない設計では責任の重さに見合わないと受け止められやすいため、「管理者手当を月3万〜5万円程度支給し、評価制度上も管理職として処遇する」という設計をとる院が増えている。
さらに、管理者が突然退職すると施術所の運営継続そのものが揺らぐ。少なくとも2名以上の施術管理者候補を院内に育てておきたいところだ。
採用・育成の現場で「管理者要件」をどう活かすか?
採用設計の中核だ。第34回柔道整復師国家試験(2026年3月)の合格率は71.5%だったが、新卒採用した柔整師が施術管理者研修を修了し、実際に法定管理者として届け出るまでに要する期間は、実務経験要件(1年以上)と研修スケジュールを踏まえると、最短でも1年半〜2年程度が現実的な目安になる。
採用時にこの要件を伝えていない院では、入職後にスタッフが「自分が管理者になることを知らなかった」「負担が増えるなら辞める」と感じるミスマッチが起こりやすい。一方で、採用段階から「将来的に管理者として院を任せる」というキャリアプランを示せれば、成長意欲の高い柔整師に対する訴求軸として機能しやすい。
育成面でも発想は同じだ。管理者要件を意識したロードマップを用意し、入職1年目は施術技術のOJTを中心に据えながら、療養費請求の流れ・施術録の記載・レセプト点検の実務を並行して学ばせ、2年目以降に施術管理者研修の受講を促したうえで、研修修了後に管理者候補として登録する流れをつくると、採用から育成までの導線に一貫性が出る。
「院長」肩書を使う際の広告規制の注意点
ここは盲点になりやすい。広告表記の観点でも院長・管理者の区別は無関係ではなく、あはき・柔整広告ガイドライン(令和7年2月18日 医政発0218第1号)では、施術所の広告に記載できる事項は限定列挙されているため、「院長」という肩書自体の使用が直ちに問題になるわけではないものの、「院長が直接施術」「院長が管理する安心の施術所」といった表現が、管理者として届け出ていない人物を指している場合には、実態と異なる表示として問題になりうる。
広告に「院長」を記載する場合は、その人物が法定管理者と一致しているか、あるいは実態上の責任者として誤解を与えない表現になっているかを事前に確認しておく必要がある。表記は丁寧に扱いたい。
管理者を失ったとき、院はどう動くべきか?
最も緊張感の高い局面である。管理者が退職・急病・資格停止になった場合、施術所は管理者不在状態に陥り、この状態が続くと地方厚生局への報告義務が生じるうえ、受領委任の取扱い継続にも影響が出るため、代替の管理者候補がいないままでは、施術所の保険取扱いを一時停止せざるを得ない可能性も出てくる。
「管理者が辞めそうだ」「施術管理者の候補が1人しかいない」という状態は、すでに余裕が乏しいサインだ。動く基準は比較的はっきりしており、管理者候補を院内に2名以上確保できていない段階で、採用計画を見直す判断をすべきだ。施術管理者研修の修了まで最短でも1年半を要することを逆算すると、人材不足に気づいてから採用・育成を始めても、法的な安全網が整うまでには相応の時間がかかる。
多店舗展開を視野に入れている院であれば、現在の施術所が軌道に乗った段階で次の管理者候補の採用を動かす、という考え方が現実的だ。後手に回らないことが大切である。



