整骨院の月別売上予測を正確に立てる方法——4ステップで経営判断を変える
整骨院の月別売上予測は「過去実績の分解」と「季節係数の設定」が核心で、この2つを押さえれば資金繰りと採用計画が根本的に変わる。
主要データ
- 柔道整復の施術所数(令和6年末現在):50,924か所(厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表))
- 就業柔道整復師数(令和6年末現在):78,666人(厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表))
- 令和3年度の柔道整復療養費総額:2,867億円(厚生労働省 保険局調査課「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、施術用装具に係る療養費の推移(推計)」(医療保険に関する基礎資料〜令和3年度の医療費等の状況〜))
「感覚で立てた計画」はなぜ必ず外れるのか?
問題はここにある。売上予測を「だいたい先月と同じくらい」で組んでいる院長ほど、3月と9月に資金繰りで詰まりやすいが、それは偶然ではなく、整骨院の売上には月ごとの来院数の揺れが大きいうえ、その揺れ方には毎年ある程度の再現性があるため、感覚のままでは同じズレを何度も繰り返しやすいからである。
数字が物語る。令和6年末時点で柔道整復の施術所数は50,924か所(厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表))に達しており、競合が密集した市場では、売上の読み違いがわずか1か月分でも採用の先送りや設備投資の遅延につながりやすいため、月別の売上予測を構造的に持つことは、規模を問わず経営の土台となっている。
誤解も多い。「売上予測は大きな院の仕事だ」という見方である。だが、従業員が多い院ほど人件費の固定費が重くなりやすい一方で、一人院長の整骨院でも家賃や設備のリース料、レセプト処理の外注費などは着実に発生するため、予測精度の重要性は院の規模で薄れるものではない。そこは共通だ。
月別売上予測を知らない院と知っている院では何が違う?
違いは明確である。予測を持たない院の経営判断は「今月の通帳残高」を起点にしやすく、資金が多ければ採用を考え、少なければ経費を削るという流れになりがちだが、この判断軸は遅行指標に依存しているため、何かが起きてから動く形になり、打ち手が後ろへずれ込みやすい。
一方で、月別予測を持つ院は3か月先の売上見込みを基準に判断する。たとえば「10月・11月は例年売上が伸びる一方で、12月後半から1月初旬にかけて来院数が落ちる」と把握していれば、11月の繁忙期へ向けてスタッフのシフトを厚くし、1月の閑散期には設備のメンテナンスや研修を集中的に入れるといった計画が立てやすく、同じ業務量でも現場の混乱を抑えやすい。
本質は別にある。月別売上予測の価値は、未来をぴたりと当てることではなく、意思決定の根拠を感覚から数字へ移す点にあり、予測値と実績値の乖離を毎月追う習慣ができると、経営の見え方そのものが少しずつ変わっていく。
比較項目 | 予測なし | 月別予測あり |
|---|---|---|
採用タイミング | 通帳残高で判断(後手) | 繁忙期3か月前に着手 |
仕入れ・消耗品 | 欠品してから注文 | 来院数予測連動で発注 |
資金繰り | 毎月チェック・都度対処 | 年間キャッシュフロー計画を保持 |
保険請求タイミング | 月末に集中して処理 | 繁忙月を見越してレセコン入力を分散 |
自費メニュー展開 | 思い立ったら実施 | 閑散月の売上補完として計画的に導入 |
月別売上予測の全体像——どんな手順で進めるのか?
まず全体像だ。手順は4ステップで完結し、複雑な統計処理は不要で、エクセルまたはGoogleスプレッドシートがあれば十分であるため、大切なのは高度な分析技術そのものではなく、毎月同じ手順で数字を並べ、同じ定義で比較できる状態をつくることであり、先に各ステップの役割を理解しておくと実務で迷いにくい。
- ステップ1:過去12〜24か月の実績データを整理する——月別売上・患者数・施術件数・自費/保険比率を分解する
- ステップ2:季節変動パターン(季節係数)を算出する——月平均に対する各月の比率を求め、自院固有の波を可視化する
- ステップ3:基準売上と季節調整済みの予測値を算出する——トレンド成長率を加味して翌年の月別予測値を確定する
- ステップ4:予測と実績の差異管理サイクルを回す——毎月5日前後に先月実績を入力し、予測を更新し続ける
この4ステップは初回設定に2〜3時間かかるが、2か月目以降の更新作業は月あたり15〜20分で完結する。求められるのは難しさへの耐性より、続ける仕組みづくりである。
ステップ1:過去実績データはどの粒度で分解すべきか?
最初に揃える。まず揃えるべきデータは以下の5項目であり、レセコンの月次レポートとPOS・自費管理ソフトを組み合わせれば大半は15分以内で抽出できるため、ここで手間取る院であっても「何を出すか」を固定してしまえば、翌月以降の作業負荷は大きく下がっていく。
- 月別売上合計(保険収入+自費収入)
- 月別延べ患者数(実患者数ではなく施術延べ件数)
- 月別保険請求件数・請求金額
- 月別自費売上(施術料+回数券+物販)
- 月別営業日数(祝日・年末年始の影響を除外するため必須)
期間設定も重要だ。データ期間は最低12か月、可能なら24か月分を使う。開業から12か月未満の院は、同地域・同規模の院のベンチマークを活用するか、月次の伸び率から外挿するしかないが、その場合は予測の信頼区間が大きくなることを前提に置く必要があり、数字をそのまま確定値のように扱わない姿勢が欠かせない。
実務上の盲点もある。「営業日数補正」は省略されがちだが、これを飛ばすと年末年始のある12月や1月が見かけ上の不振月に見えやすく、季節係数そのものが歪んでしまうため、1日あたり売上(日次単価)へ換算してから月別分析に入るほうが、実態に近い見え方になりやすい。ここは外せない。
ステップ2:季節係数はどうやって計算すればよい?
考え方は単純だ。季節係数の計算は算数の範囲で完結するため、難しく見えても手順を分ければ迷いにくく、しかも毎年同じ計算式で更新できる形にしておけば、担当者が変わった場合でも引き継ぎしやすい。手順は以下の通りである。
- 過去12か月(または24か月)の月別売上を合計し、月数で割って「月平均売上」を算出する
- 各月の売上を月平均売上で割る。この値が「季節係数」だ(例:1月が月平均の0.82倍なら季節係数=0.82)
- 24か月データがある場合は、同月の係数を平均する(例:2024年1月と2025年1月の係数を平均して「1月の係数」とする)
整骨院における典型的な季節変動パターンは以下の表のようになる。もっとも、これはあくまで一般的な傾向にとどまり、自院の立地や客層、主力メニューによって係数は大きく変わるため、地域密着型の院では運動会シーズンの10月に山が出ることもあれば、農繁期のある地方では5〜6月に繁忙が集中することもあり、一般論だけで判断すると現場とのズレが生じやすい。
月 | 一般的な傾向 | 主な変動要因 |
|---|---|---|
1月 | 閑散傾向 | 年始休み・患者の外出減少 |
2月 | やや閑散 | 日数少・インフル期 |
3月 | 回復〜繁忙 | 年度末・卒業行事・新生活準備 |
4〜5月 | 繁忙 | 新患増・運動開始・新入社員症候群 |
6〜7月 | やや閑散 | 梅雨・外出減・来院意欲低下 |
8月 | 閑散〜回復 | お盆・連休・スポーツ外傷増 |
9〜10月 | 繁忙 | スポーツシーズン・秋の活動増 |
11〜12月前半 | 繁忙 | 年末駆け込み・交通事故増加傾向 |
12月後半 | 閑散 | 年末休業・来院機会の減少 |
ここで教科書的なモデルをそのまま当てはめるのは危うい。全産業共通の季節指数を流用する説明も見かけるが、整骨院経営の実務では、受領委任による保険収入と自費収入で季節感が異なるうえ、高齢者中心の院かスポーツ系の若年層が多い院かによって波形まで変わるため、係数は必ず自院のデータから導く必要がある。
基準売上とトレンド成長率をどう加味するか?
次の論点だ。季節係数だけでは「今年も去年と同じ」という前提の予測しか作れないため、成長や縮小のトレンドを加味するには「基準売上」の概念を使い、足元の平均水準と変化率を分けて考える必要がある。ここを分けると、見通しはかなり整理しやすくなる。
基準売上は以下の式で求める。
- 基準売上 = 直近12か月の月別売上を合計 ÷ 12
そのうえで、前年同期比の成長率を算出する。たとえば「直近12か月の月平均が前の12か月の月平均より4.5%高い」なら年間成長率は4.5%であり、この成長率を加味した翌年の予測式は、基準売上という土台に季節係数だけでなく伸び率も掛け合わせる考え方になるため、単純な前年踏襲より実態に近い見込みを作りやすい。
- 翌月の予測売上 = 基準売上 × (1 + 成長率) × 対象月の季節係数
具体的なイメージで確認しよう。基準売上が月200万円、成長率が月次換算で0.4%、1月の季節係数が0.82とすれば、来年1月の予測売上は「200万円 × 1.004 × 0.82 ≒ 164.7万円」となり、この予測値を下回った場合は季節要因以外の下押し圧力、たとえば競合院の出店や離患の増加などを疑うシグナルとして扱いやすくなる。
なお、自費移行を進めている院では工夫が要る。保険売上のトレンドと自費売上のトレンドを分けて管理すると精度が上がりやすく、保険収入はレセプト単価の変動、すなわち療養費改定の影響を受ける一方で、自費売上は客単価と来院頻度の掛け算で動くため、両者を合算したまま一本のトレンドとして扱うと誤差が広がりやすい。
予測精度を上げるためにどんなツールと前提条件が必要か?
道具はシンプルでいい。月別売上予測の管理ツールは、シンプルなスプレッドシートで十分であり、重要なのは高機能な見た目ではなく、毎月同じ場所に同じ定義で数字を入力できることなので、以下の3種類の中から自院の規模と日々の運用習慣に合ったものを選ぶのが現実的である。
ツール | 向いている院 | 注意点 |
|---|---|---|
Googleスプレッドシート | 一人院長〜スタッフ5名以下 | 入力ルールを院内で統一する必要がある |
Excel(クラウド共有) | 複数スタッフ・分院あり | OneDrive/SharePoint連携が前提 |
経営管理機能付きレセコン | 月次レポート自動出力を希望する院 | レセコンベンダーの機能差を確認すること |
前提条件も重要だ。押さえるべき点は4つある。
- 保険収入の計上タイミングを統一する——受領委任の入金は請求月の翌々月が基本だが、院によって「請求月計上」「入金月計上」が混在する。どちらかに統一しないと月別の数値が揺れる
- 返戻・再請求の処理ルールを決める——返戻が発生した月と再請求月で売上がダブルカウントされるリスクがある。返戻は請求取り消しとして計上し、再請求成功時に収益認識するルールが実務上は扱いやすい
- 回数券の収益認識を施術消化時点にする——回数券販売時点で全額売上計上すると、実際の施術提供月とずれが生じる。前受金処理(施術消化の都度売上認識)が財務的には正確だ
- 年間の臨時収入を除外する——持続化補助金やIT導入補助金などの採択時の入金は経常的な売上ではない。予測モデルから除外しておかないと基準売上が歪む
現場での応用——月別予測を経営判断に連動させるコツ
作って終わりではない。予測シートは完成させること自体が目的ではなく、実際の経営判断に結びつけて初めて価値を持つため、ここでは現場で回しやすい3つの習慣を紹介する。運用設計が要になる。
毎月5〜7日の「差異レビュー」を必ず実施する
前月の実績を入力したら、予測値との差異を「件数・単価・自費比率」の3軸で分解する。売上総額だけを見ていると、「患者数は増えたのに単価が落ちた」「保険来院が増えて自費が押されている」といった構造変化を見逃しやすく、差異の原因が季節要因なのか、オペレーション起因なのか、市場変化なのかを短時間で見分けられる粒度でデータを持つことが前提になる。
閑散月の自費施術強化を事前に計画する
先回りが重要だ。季節係数が低い月は院によって異なるものの、1月・6月・8月が代表的であり、この時期は来院者数の減少が分単価に響きやすいため、LINE公式からのリマインド配信や回数券の事前販売、自費メニューの案内を繁忙月の後半から始めておくと、閑散期の落ち込みを和らげやすく、予測を持っていれば「3か月前から仕込む」という時間軸も設計しやすい。
採用計画は予測売上の「人件費キャップ」から逆算する
採用は逆算だ。労働分配率を50〜55%以内に収めるという管理指標を持つ院は多いが、この指標を「今月の実績売上」に当てる院と「翌月の予測売上」に当てる院とでは判断の速さが変わり、予測売上ベースで人件費キャップを計算しておくことで、来月の繁忙期が来る前にスタッフを確保できるかどうかを、より早い段階で見極めやすくなる。
通帳残高で判断していた院長がこの仕組みを取り入れると、採用の後手感が薄れるケースは少なくない。差が出るのは、こうした実務運用の積み重ねである。
GA4やGoogleビジネスプロフィールのデータと連動させる
集客面の先行指標も使える。GoogleビジネスプロフィールのインサイトでMEOの表示回数が落ち始めた月は翌々月の新患数が落ちるサインになることがあり、さらにGA4の指名検索数の推移やローカルパックへの表示状況も合わせて見ておくと、予測の前提となる「新患流入の見通し」をより具体的に置けるため、売上予測を単なる会計管理にとどめず、集客管理と一体で捉えやすくなる。
次に取るべきアクションは何か
まず着手する。今週中に過去12か月分の月別売上・患者数・営業日数をレセコンから抽出することから始めたい。データが揃えば季節係数の計算は2時間かからず、しかも「完璧な予測モデルを作ってから始める」という発想にこだわるほど初動は遅れやすいため、精度は毎月の差異レビューを重ねながら上げていくものだと捉え、まず形にすることを優先したい。
最後は運用である。シートの初期設定が終わったら、直近の閑散予測月に向けた自費施術の案内やLINE公式の配信計画を先に組んでしまうとよい。その一手が、月別予測を作ったまま眠らせる院と、毎月使い続ける院を分ける。



