整骨院の交通事故集患は「自費」「自賠責一括対応」「自費移行」の3モデルがあり、院の体制と地域特性によって最適解がまったく異なる。

主要データ

まず押さえたい。令和7年の交通事故負傷者数は338,508人(警察庁交通局「令和7年における交通事故の発生状況について」2026年2月26日公表)であり、市場としての裾野は十分に大きいにもかかわらず、多くの整骨院では一括対応の期間中だけ来院が続き、その後の関係構築や自費移行の設計まで踏み込めていないのが実情となっている。

差がつくのはここだ。自費・保険(自賠責一括対応)・示談後自費移行という3つの集患モデルを整理し、自院の経営構造に合うものを選べているかどうかで、交通事故対応が単発の来院で終わるか、継続的な収益基盤になるかが分かれていく。

先生の状況によって、最適な集患モデルはどれか?

結論は単純ではない。 「自費だけ」「保険だけ」と切り分ける見方はわかりやすい一方で、実際には患者単価、スタッフ数、損保会社との関係性、地域の事故件数が同時に影響するため、他院でうまくいった型をそのまま持ち込んでも、自院では噛み合わないことが少なくない。以下の3パターンから、先生の現状に近いものを見極めてほしい。

パターンA:自賠責一括対応メインで高回転を狙う院

該当する院の特徴:スタッフ3名以上、週5〜6日稼働、損保会社や弁護士紹介との連携実績がある、または院の近くに幹線道路・高速ICがある。

強みは回転力だ。一括対応は損保会社が施術費を直接院に支払う仕組みであり、患者の窓口負担がゼロになるため継続来院につながりやすく、さらに自賠責保険の傷害部分支払限度額は120万円(国土交通省 自賠責保険・共済ポータルサイト「よくあるご質問」(支払限度額))で、むちうち中心の案件では示談まで3〜6か月前後の通院期間が見込まれることも多いため、一定件数を安定して受け入れられる院では収益の柱として機能しやすい。

ただし、運用精度が前提だ。施術録の精度が低い、あるいは損保担当者との定期的な情報共有が弱い状態では、件数があっても安定運用にはつながりにくい。そこが分かれ目である。

パターンB:自費施術を軸に交通事故患者を迎える院

該当する院の特徴:院長1人またはスタッフ1〜2名の小規模院、または自費移行を推進中でブランディングが整いつつある院。

特徴は自由度の高さにある。自費の交通事故施術は損保会社の打ち切り判断に左右されにくく、院側でプログラムと期間を設計できる一方、患者が施術費をいったん自己負担し、その後に相手方保険へ請求する流れになるケースも多いため、キャッシュフローの説明、同意書の整備、費用に関する認識合わせまで含めて最初に組み立てておく必要がある。

加えて注意点もある。自賠責保険への後払い請求が認められるかどうかは案件の性質や弁護士の判断に左右されるため、費用回収の見通しについては患者に断定せず、「担当弁護士に確認を」と案内する姿勢が実務上は適切だ。

パターンC:一括対応期間中は保険、示談後に自費移行する院

該当する院の特徴:交通事故患者を既に受け入れているが、一括対応打ち切り後に患者が離脱するサイクルに悩んでいる院。

見落とされやすいが有力だ。このモデルは、一括対応の期間中に築いた信頼関係を示談後の自費継続につなげる設計であり、成否を分けるのは「症状固定前から自費施術の価値をどう伝えているか」に尽きるため、打ち切り後になって初めて料金や継続プランの話を出しても、患者には唐突に映りやすい。

だから準備は前倒しになる。施術録に基づく経過説明と、示談後のセルフケアプログラムの提案を早い段階から重ねておくことで、患者の納得度は変わってくる。ここが実務の要所だ。

なぜ状況によって最適解が変わるのか?

理由は構造にある。自賠責一括対応とは、任意保険会社が被保険者(加害者)の損害賠償責任をサービスとして肩代わりし、院に直接施術費を支払う仕組みである一方、この運用自体は法令上の義務ではなく保険会社によるサービス提供であるため、現場では継続が当然と考えず、終了し得る前提で患者説明や院内フローを整えておく必要がある。

一括対応が示談前に終了した場合、患者は健保切替か自費負担かを選ぶことになる。ここを曖昧にしたまま受け入れると、後の説明で混乱が起きやすい。

一方で、自費施術で交通事故患者を受け入れる場合は、院が施術プログラムと期間を独自に設計できる反面、料金説明、同意取得、施術録管理の実務負担が増え、さらに自費単価を自由に設定できるからこそ、後日になって保険会社や弁護士から相当性を問われる可能性も視野に入れておかなければならない。

比べるべきは単価だけではない。よく「自費のほうが単価が高い」と語られるが、回収リスク、説明コスト、患者流出リスクまで含めた収支構造で見なければ判断を誤るため、これは価格設定の話というより、経営リスクをどう設計するかの問題である。

自費・保険(自賠責一括対応)・自費移行モデルの全体比較

比較項目

自費施術メイン

自賠責一括対応メイン

一括対応→自費移行

施術単価

院が自由設定(高単価可)

損保会社との合意額に依存

一括期間は合意額、移行後は自由設定

入金タイミング

施術時または後払い(患者→院)

損保会社→院(月締め入金が多い)

一括期間:損保→院、移行後:患者→院

契約期間(通院期間)

院と患者の合意で設計

症状固定まで(損保判断)

一括終了後も継続可能

打ち切りリスク

なし(院主導)

高(損保の判断次第)

一括打ち切り後に自費継続で対応可

患者負担

施術時に全額負担(後請求の場合あり)

窓口負担なし

移行後は自己負担が発生

施術録管理

通常の自費管理

損保への報告書・施術録が必要

両方の管理が必要

向いている院規模

小規模・自費移行推進中

中規模以上・損保連携実績あり

既に交通事故受け入れ実績がある院

長期安定性

院のブランド次第

事故件数・損保方針に左右される

移行率が高ければ安定

表では拾いきれない視点もある。自賠責保険の傷害部分支払限度額は120万円(国土交通省 自賠責保険・共済ポータルサイト「よくあるご質問」(支払限度額))で、この枠には施術費、通院交通費、慰謝料が含まれ、さらに任意保険の対人賠償が適用される案件では120万円を超えた分も任意保険から支払われるが、任意自動車保険の対人賠償責任保険の支払件数は2024年度で317,836件(損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2025年度版(2024年度統計)第14表)あるため、一括対応の市場規模は今も小さくない。

ただし、読み方には注意がいる。この件数には整骨院以外の医療機関への支払い分も含まれるため、整骨院に直接結びつく規模としてはより小さく見積もる必要がある。数字は文脈で見るべきだ。

各モデルの実務詳細と陥りやすい落とし穴は?

自費施術モデルの実務

先に整えるべきものがある。自費で交通事故患者を受け入れる場合、最初の接触時点で以下の3点を準備しておきたい。

  • 施術内容・期間・単価を明示した同意書(施術録と紐づけること)
  • 費用回収の見通しに関する説明と、弁護士・損保担当者への相談誘導
  • 施術録の記載密度(損保や弁護士が後日確認することを前提とした内容)

実務では記録がものを言う。教科書的には「自費は院が自由に設定できる」と整理されるが、現場では後から損保会社や弁護士が施術費の相当性を争点にすることもあるため、症状の推移、施術内容、患者の主訴の変化を施術録へ具体的に残しておくことが、説明責任を果たすうえで大きな支えになる。

保存義務も確認しておきたい。厚生労働省の通知では、施術録は施術が完結した日から5年間の保存が義務付けられている(厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費について(通知)」)。ここは軽視できない。

自賠責一括対応モデルの実務

安定運用の鍵は連携にある。一括対応で収益を安定させるには、損保担当者との定期的な情報共有が欠かせず、担当者が交代してもやり取りが途切れないよう、窓口担当者名だけでなく担当部署や代表番号まで施術録とは別ファイルで管理しておくと、属人化を抑えやすい。

また、打ち切り判断自体は損保会社が行うものだが、院から現在の症状や施術継続の必要性を適切なタイミングで伝えることで、終了前に協議の余地が生まれることもある一方、示談交渉そのものや過失割合の判断への介入は弁護士法72条(非弁行為)に抵触するため、院が担うのは施術上の必要性を伝える範囲にとどめるべきである。

通院間隔にも目を向けたい。1か月を超える空白が生じると、損保側から症状が軽快したと受け取られ、一括対応が終了しやすくなることがあるため、患者の通院間隔をどう管理するかも重要な実務となる。

一括対応→自費移行モデルの実務

成否を分けるのはタイミングだ。移行の話を一括対応終了の直前に初めて出すと、患者は突然費用の話に切り替わったように感じやすいため、施術開始から3〜4週目あたりで「示談後もセルフケアとして継続できるプログラムがある」と自然に伝え始め、選択肢として先に認識してもらう流れのほうが受け入れられやすい。

移行後の自費プログラムは、痛みが出たときだけ来る反応型ではなく、予防やコンディショニングの文脈で設計したほうが継続につながりやすく、交通事故をきっかけに身体への関心が高まっている患者に対しては、その後の生活管理まで含めた提案がしやすい。設計の差が出やすい場面である。

契約期間の設計で失敗しないためのチェックポイント

まず言葉を整理したい。「契約期間」という表現は、整骨院の交通事故対応では損保会社との一括対応が続く通院期間を指す場合と、自費施術で院と患者が合意する施術プログラム期間を指す場合があり、この2つを混同すると、患者説明でも院内管理でもズレが生じやすい。

一括対応の「通院期間」に関するチェック事項

  • 損保担当者から口頭で打ち切りを告げられた場合、書面での確認を取ることを徹底しているか
  • 症状固定の判断は医師が行うものであり、院からは施術の必要性のみを伝えているか(医師法上の診断行為との切り分け)
  • 健保切替が必要になった場合の患者案内フローを事前に準備しているか

自費施術の「プログラム期間」に関するチェック事項

  • 施術期間・回数・料金が記載された書面を患者に交付しているか(特定商取引法の継続的役務提供に該当する可能性があるため)
  • 中途解約時のルールを事前に説明・同意取得しているか
  • 成果保証・効果断定に当たる表現が説明書や同意書に含まれていないか(景品表示法)

法務面の確認は後回しにしにくい。特定商取引法における継続的役務提供の規定は、施術の内容、期間、料金設計によっては整骨院の自費施術にも関わる可能性があるため、不安がある場合は消費者庁のガイドラインや弁護士への確認を前提に、契約書類を設計するのが無難である。

どのモデルが自院に合うか?判断するための3つの問い

迷ったときは現状確認から入る。以下の3つに答えると、自院の立ち位置が見えやすくなる。

  1. 損保担当者・紹介弁護士とのパイプが今あるか?
    なければ、自賠責一括対応メインの戦略は集患コストが高くなる。自費モデルか、まずはパイプ構築から着手するのが現実的だ。
  2. 自費施術のメニュー・価格体系が整っているか?
    整っていない状態で交通事故患者を自費で受け入れると、患者ごとに料金が変わるという混乱が生じる。先にメニュー設計を固めてから受け入れを始めることを推奨する。
  3. スタッフが施術録・報告書の記載に慣れているか?
    一括対応や自費後払い案件では、施術録の記載密度が収益直結の問題になる。院長だけでなくスタッフ全員が記載基準を把握しているかが分岐点だ。

判断の仕方は意外と明快だ。この3問すべてに「はい」と答えられるなら、パターンCの「一括対応→自費移行」は収益の安定性と長期的な患者資産の積み上げを両立しやすく、逆に1問でも「いいえ」があるなら、モデル選定を急ぐより先に、その不足部分を埋めるほうが結果的に遠回りになりにくい。

次にやるべきこと

着手はシンプルでよい。まず今週中に、自院の直近6か月分の交通事故患者の入退院(来院開始・終了)データを確認してほしい。「一括対応終了から何か月で来院が止まったか」を院別・担当損保別に集計するだけでも、自院の集患モデルの弱点はかなり見えやすくなる。

もし一括対応終了から1か月以内に離脱している患者が多いのであれば、パターンCの自費移行設計に早めに着手したい。施術録の整備、自費プログラムのメニュー化、患者への移行トーク設計という順で進めると現場の混乱を抑えやすく、さらに施術録の保存義務は施術完結から5年間(厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費について(通知)」)であるため、過去の記録を見直しながら記載基準をそろえる作業から始めると実務に乗せやすい。

最後に確認したい。 「どのモデルが正しいか」を先に決めるより、「自院の現状をどこまで正確に把握しているか」を先に問うべきであり、データを見ないままモデルを選ぶのは、施術録を確認せずに方針を決めるのに近い。順序が重要である。