整骨院におけるマイナンバーカードの運用対象は患者ではなく、スタッフの社会保険・雇用保険手続きと源泉徴収、給付金申請の3領域に限定される。保険証との一体化は柔整施術所では制度対象外だ。

主要データ

  • 柔道整復師施術所数:約5.1万施設(厚生労働省 衛生行政報告例 2022年度)
  • マイナンバーカード交付率:76.3%(総務省 2026年3月末時点)
  • 健康保険証との一体化対応義務化:医療機関のみ対象(厚生労働省 オンライン資格確認義務化通知 2023年)
  • 雇用保険手続きの電子化義務:従業員10名以上で必須(雇用保険法施行規則 2020年改正)

整骨院がマイナンバーカードと直面する3つの実務領域

整骨院経営者が「マイナンバーカード」と聞いてまず思い浮かべやすいのは、患者の保険証確認の場面である。だが、令和8年5月時点で柔道整復師施術所はオンライン資格確認の義務化対象外であるため、患者のマイナンバーカードを受け付ける実務は存在せず、院で現実に関わるのはスタッフの社会保険手続き、源泉徴収票の作成、各種給付金申請の3領域に限られる。

制度の線引きは明確だ。令和4年10月から健康保険証とマイナンバーカードの一体化が段階的に進んだが、この制度は医療機関(病院・診療所・歯科診療所・薬局)のみが対象であり、柔整施術所・鍼灸院は含まれないため、受領委任払いの枠組みでは、患者は施術所の窓口で健康保険証(紙またはカード)を提示し、施術所は保険者番号・記号番号を施術録に記録する運用が続いている。厚生労働省の柔道整復療養費検討専門委員会でも、オンライン資格確認の導入は議題に上がっていない。現状はそこにある。

一方で、院内の雇用管理では事情が変わる。従業員を雇用する整骨院は、社会保険・雇用保険の資格取得届、源泉徴収票・支払調書の作成、給付金申請(雇用調整助成金・業務改善助成金等)の各場面で、スタッフのマイナンバーを収集・記載する義務を負っており、さらにマイナンバー法の施行により、個人番号の取得・保管・廃棄には厳格な安全管理措置が課され、違反には刑事罰も設けられている。ここは軽く見られない。

患者側のマイナンバーカード運用が整骨院に波及しない理由

背景は制度設計にある。医療機関ではマイナンバーカードを保険証として利用するオンライン資格確認が令和5年4月から原則義務化されたが、柔整施術所が対象外となったのは、療養費払いと現物給付の違いが大きいためであり、医療機関では患者が受診した時点で「現物給付」が発生し、医療機関は診療報酬を保険者に請求する一方、この段階で患者の資格情報をリアルタイムで確認する必要があるため、オンライン資格確認システムが構築された。

整骨院の受領委任払いは別の流れだ。患者が施術を受けた後、施術所が患者に代わって療養費を請求する「償還払いの代理受領」の形式であり、保険者への請求は月単位でまとめて行い、施術録に記録された保険証情報をもとに審査支払機関(柔整審査会)を通じて処理されるため、リアルタイムの資格確認を前提としていない。一方で、システム導入のコスト対効果も医療機関に比べて低く、このため厚生労働省は柔整施術所へのオンライン資格確認義務化を見送った。厚生労働省「柔道整復療養費の推移」によれば、令和3年度の柔道整復療養費の支給総額は約3,689億円に達しており、医療費全体に占める割合は約0.8%と小規模ながらも、審査支払機関を通じた月次まとめ請求の枠組みが定着している。

もっとも、将来まで固定とは言い切れない。ただし、保険者側では既に被保険者のマイナンバーと保険証情報が紐付けられており、今後、柔整施術所でもオンライン資格確認の任意導入が可能になる余地はあるため、現時点では「患者のマイナンバーカードを整骨院が受け付ける」実務は存在しないとしても、制度動向の確認は続けておきたい。備えは必要だ。

スタッフのマイナンバー収集と利用目的の明示義務

整骨院がスタッフからマイナンバーを取得する場面は、実務上、次の6つに整理できる。

  • 社会保険(健康保険・厚生年金)の資格取得届・喪失届
  • 雇用保険の資格取得届・喪失届
  • 源泉徴収票・給与支払報告書の作成
  • 支払調書の作成(報酬として支払った場合)
  • 雇用調整助成金・業務改善助成金等の給付金申請
  • 退職所得の源泉徴収票(退職金支給時)

取得時の説明は要点になる。マイナンバー法では、取得時に「利用目的」を本人に明示する義務があり、「雇用契約に関する各種手続きのため」といった包括的な説明だけでは足りず、「社会保険・雇用保険の資格取得届作成」「源泉徴収票作成」など具体的な用途を列挙する必要があるため、多くの整骨院では雇用契約書または入社時の個人情報取得同意書に、利用目的を並べた条項を設けている。曖昧さは残せない。

電子化も見落とせない論点である。従業員10名以上の施術所では、雇用保険・社会保険の届出を電子申請で行うことが義務化されている(雇用保険法施行規則 2020年改正)ため、e-Govを通じてマイナンバーを含む情報を送信する場面では、紙での提出とは別の漏洩リスクが生じる。一方で、総務省の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」では、電子申請時にも安全管理措置(通信の暗号化、アクセス権限の制限)が求められている。運用整備が欠かせない。

マイナンバーの安全管理措置:小規模院と中規模院の判断軸

安全管理措置は規模で見方が変わる。マイナンバー法では、事業者の規模に応じて安全管理措置の内容が変わり、個人情報保護委員会のガイドラインでは、従業員100名以下の事業者を「中小規模事業者」として一部の措置を簡素化できるとしているが、整骨院の大半はこの範囲に該当する一方で、実務では「院長1名のみ」「院長+スタッフ数名」「分院展開で従業員10名以上」の3つに分けて考える方が判断しやすい。個人情報保護委員会の公表資料によれば、令和4年度のマイナンバー関連行政指導は全国で127件あり、そのうち約8割が従業員100名以下の中小事業者によるもので、保管期間超過と廃棄方法の不備が主な指導理由となっている。

院の規模

取り扱う個人番号の件数

必須の安全管理措置

推奨される保管方法

院長のみ(1名)

院長本人の番号のみ

利用目的の明示、廃棄時の記録

自宅の施錠可能な保管庫

院長+スタッフ2〜5名

5〜6件程度

上記+取扱い担当者の明確化、アクセス制限

施術所内の施錠可能なキャビネット、取扱い記録簿の作成

分院展開(従業員10名以上)

10件以上

上記+組織的安全管理措置(取扱規程の策定、従業員研修)、電子データの暗号化

クラウド給与システムの利用、二要素認証の導入

院長1名のみの施術所であれば、スタッフのマイナンバーを取り扱う場面がないため、実務負担は比較的軽い。院長自身のマイナンバーは、確定申告(青色申告決算書)や取引先への支払調書提供時に使用するが、これらは年1〜2回の頻度にとどまるため、通知カードまたはマイナンバーカードのコピーを自宅の金庫に保管する程度で足りる。

ただし、雇用がある院では一段階複雑になる。スタッフを雇用する施術所では、取得から廃棄までの流れを記録し、漏洩リスクを抑える仕組みが必要であり、特に社会保険労務士に手続きを委託している場合、マイナンバーを記載した書類を郵送またはメールで送付する際の暗号化・パスワード保護まで求められる。厚生労働省の「雇用保険被保険者資格取得届」の記入例では、マイナンバー欄への記入が明記されており、提出時には本人確認書類のコピー添付が求められる。管理の差が表れやすい部分だ。

給付金申請とマイナンバー:雇用調整助成金・業務改善助成金の実務

給付金申請では、マイナンバーに触れる場面が増えやすい。整骨院が国や自治体の給付金を申請する際、スタッフのマイナンバーが必要になるケースがあり、代表例として挙がるのが雇用調整助成金(休業手当を支給した場合の助成)と業務改善助成金(最低賃金引き上げに伴う設備投資への助成)である。

雇用調整助成金では、休業させた従業員の氏名・生年月日・雇用保険被保険者番号とともに、マイナンバーの記載が求められる(令和2年度以降の様式)。ハローワークへの申請書類には、従業員ごとのマイナンバー確認書類(通知カードのコピーまたはマイナンバーカードの裏面コピー)を添付するが、e-Govを通じた電子申請ではマイナンバーが自動で紐付けられるため、書類の添付は不要になる。

一方、業務改善助成金では、助成対象となる従業員の賃金台帳と雇用契約書を提出するものの、この際にマイナンバーの記載は原則不要だ(厚生労働省 業務改善助成金の手引き 2025年度版)。ただし、申請事業者の法人番号(マイナンバーの法人版)は記載が必要であり、個人事業主として開業している院長の場合は、事業用の個人番号を提供する形になる。制度ごとの差は小さくない。

申請実務では、細かな取り扱いミスが審査遅延や不支給の原因になりやすい。たとえば、従業員本人からマイナンバーを取得する際に利用目的を「給付金申請のため」と明示せず後から再取得が必要になること、マイナンバー確認書類のコピーを取った後に原本を返却せず保管し続けて法定保管期間(手続き終了後すみやかに廃棄)を超えること、社会保険労務士に申請を委託する際にマイナンバーを平文のメールで送信し個人情報保護委員会の指導対象になることがある。見落としやすいが重要だ。

  • 従業員本人からマイナンバーを取得する際、利用目的を「給付金申請のため」と明示せず、後から再取得が必要になる
  • マイナンバー確認書類のコピーを取った後、原本を返却せず保管し続け、法定保管期間(手続き終了後すみやかに廃棄)を超える
  • 社会保険労務士に申請を委託する際、マイナンバーを平文のメールで送信し、個人情報保護委員会の指導対象になる

マイナンバーの保管期間と廃棄義務:レセプトとの違い

保管年限は一括りにできない。整骨院では、施術録・レセプト(療養費支給申請書)を5年間保管する義務がある(療養費の支給に関する基準 厚生労働省告示)が、マイナンバーを記載した書類の保管期間は用途ごとに異なる法令で定められており、同じ感覚で扱うと運用にずれが生じる。

書類の種類

法定保管期間

根拠法令

廃棄のタイミング

源泉徴収票(控え)

7年間

国税通則法

提出日の属する年度の翌年1月1日から7年経過後

社会保険資格取得届(控え)

2年間

健康保険法・厚生年金保険法

届出が受理された日から2年経過後

雇用保険資格取得届(控え)

4年間

雇用保険法

届出が受理された日から4年経過後

給与所得者の扶養控除等申告書

7年間

国税通則法

提出日の属する年度の翌年1月1日から7年経過後

ここは厳格である。マイナンバー法では、「個人番号を含む書類は、法令で定められた保管期間を超えて保管してはならない」と規定されている(番号法第20条)ため、施術録やレセプトのように「念のため長めに保管」という運用は認められず、期限が来たら速やかに廃棄する義務がある。例外的な扱いはしにくい。

廃棄方法にも条件がある。復元不可能な手段(シュレッダーによる裁断、焼却、専門業者による溶解処理)を取る必要があり、ゴミ箱に捨てる、ホッチキスを外してリサイクルに出すといった方法は不可である。個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」では、廃棄の記録(日時・方法・担当者)を残すことが推奨されている。記録まで含めて管理だ。

電子データも同じ考え方になる。給与計算ソフト、クラウド会計ソフト等で保管している場合も、法定保管期間経過後はデータを削除する必要があり、多くのクラウドサービスでは退職者のマイナンバーを自動的にマスキング・削除する機能が搭載されているものの、設定を確認しないまま放置するケースは少なくない。令和7年2月時点の個人情報保護委員会の行政指導事例では、退職者のマイナンバーを7年以上保管し続けていた中小企業が指導を受けた例がある。

マイナンバーカードの取得状況とスタッフへの配慮

取得率は高い水準にある。総務省の発表では、令和8年3月末時点のマイナンバーカード交付率は76.3%に達している。しかし、整骨院のスタッフ層(20代〜40代の柔道整復師・受付事務)では、取得率が全国平均を下回る傾向があり、その背景には、カード取得のメリット(コンビニでの証明書発行、マイナポイント等)が、整骨院の勤務形態(フルタイム勤務で平日昼間の役所訪問が困難)と合いにくい事情がある。

未取得でも実務は回る。スタッフがマイナンバーカードを取得していない場合でも、通知カード(令和2年5月に廃止されたが、既存のものは引き続き有効)または住民票の写し(マイナンバー記載あり)で代替できるため、院長が「マイナンバーカードを取得してください」と指示する義務はなく、「マイナンバーがわかる書類を提出してください」と依頼する形で足りる。

ただし、取得済みかどうかで案内の仕方は変わる。スタッフがマイナンバーカードを取得している場合、本人確認(身元確認+番号確認)が1枚で完結するため実務上の手間は減るが、未取得の場合は通知カードまたは住民票(番号確認書類)+運転免許証またはパスポート(身元確認書類)の2点を確認する必要があるため、入社時の書類提出案内では「マイナンバーカードをお持ちの方はコピーをご提出ください。お持ちでない方は通知カードと運転免許証のコピーをご提出ください」と記載するのが実務的だ。案内文の差が効いてくる。

マイナンバー取り扱いの失敗パターンと院内での対策

整骨院で起こるマイナンバー関連トラブルは、内容こそ違って見えても、実際には次の5パターンに集約されやすい。

パターン1:利用目的の明示漏れ

入社時にマイナンバーを取得する際、「会社の手続きで必要なので」とだけ伝え、具体的な用途を説明しなかったケースが典型である。後日、従業員から「何に使われたのか」と問い合わせを受け、再度説明と同意取得が必要になるため、対策としては、雇用契約書または個人情報取得同意書に、「社会保険・雇用保険の資格取得届作成、源泉徴収票作成、給付金申請のために利用する」と明記し、署名をもらう形が基本になる。土台の部分だ。

パターン2:コピーの取り過ぎと原本の返却忘れ

現場で起きやすいのが、マイナンバーカードのコピーを取った後、原本を返却せずに預かり続けるケースである。マイナンバー法では、「必要がある場合を除き、個人番号カードの提供を求めてはならない」と定められており(番号法第15条)、コピーを取った後は速やかに返却する必要があるうえ、コピーを取る際も表面(氏名・住所・顔写真)と裏面(マイナンバー)の両方を取るのか、あるいは社会保険の届出では表面のみで足りるのかを確認し、必要最小限の取得にとどめるべきである。

パターン3:メール送信時の暗号化漏れ

電子送信では、便利さの裏で弱点が出る。社会保険労務士や税理士にマイナンバーを含む書類をメールで送る際、PDFをパスワード保護せずに添付したケースであり、個人情報保護委員会のガイドラインでは、電子メールで個人番号を送信する場合、ファイルを暗号化し、パスワードは別の手段(電話・SMS)で伝えることが求められている。実務上は、クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox等)にアップロードし、閲覧権限を付与する形の方が安全だ。

パターン4:退職者のマイナンバーの保管継続

残し過ぎも問題になる。退職したスタッフのマイナンバーを、「いつか必要になるかも」と考えて保管し続けるケースであり、法定保管期間を超えたマイナンバーの保管は、番号法違反(第20条:目的外利用の禁止)に該当する。退職者の源泉徴収票(控え)は7年間保管が必要だが、7年経過後は廃棄し、クラウド給与システムを使っている場合は退職者データの自動削除機能を有効にする。先送りは避けたい。

パターン5:マイナンバー提供拒否への対応ミス

対応姿勢も問われる。スタッフがマイナンバーの提供を拒否した場合、「法律で決まっているので出してください」と強く迫るケースがあるが、マイナンバー法では、本人が提供を拒否した場合、事業者は「提供を求めた経緯を記録」した上で、番号欄を空欄のまま届出を行うことができる(国税庁・厚生労働省のQ&A)。ただし、届出の審査が遅れる可能性があるため、提供を求める理由を丁寧に説明し、再度提出を依頼する進め方が現実的である。圧力は逆効果になりやすい。

院長自身のマイナンバーカード取得メリット:e-Tax・電子申請の判断軸

院長自身の取得メリットは、実務で見ると、確定申告(e-Tax)と社会保険・雇用保険の電子申請の2点に集約される。

e-Taxでは、マイナンバーカードを使った電子申告により、青色申告特別控除が最大65万円(紙申告の場合は55万円)になる。これは令和2年分以降の確定申告で適用されており、整骨院の院長(個人事業主)にとっては年間10万円の控除額の差が生まれるため、10万円の控除は、所得税率20%の場合で2万円の節税、住民税10%で1万円の節税となり、合計3万円の差につながる。

利点は金額面だけにとどまらない。また、電子申告では、過去の申告データをe-Taxのシステム上で参照でき、前年比較がしやすくなる。整骨院の経営では、療養費収入(保険)と自費収入の比率、仕入れ(テーピング・消耗品)の変動を年次で追うことが多いため、データの蓄積は判断材料として有用である。

申請面でも使い勝手はある。社会保険・雇用保険の電子申請では、マイナンバーカードを使った電子署名により書類の郵送が不要になり、従業員10名以上の施術所では電子申請が義務である一方、10名未満でも任意で利用できる。e-Govを通じた電子申請では、届出の受理状況をオンラインで確認でき、ハローワークや年金事務所の窓口に行く手間を減らせる。

もっとも、取得には時間的コストもかかる。マイナンバーカードの取得には、市区町村の窓口での申請(交付通知書が届いてから窓口で受け取り)が必要であり、院長の時間を要するため、e-Tax・電子申請のメリットが年間3万円程度であれば、税理士・社労士への委託料(月1万円〜)と比較しながら、自院での運用が得策かどうかを判断する必要がある。損得の見極めである。

マイナンバー関連の法改正動向と整骨院への影響

法改正の動きは押さえておきたい。令和7年秋以降、マイナンバー制度に関する法改正が段階的に施行されるが、整骨院経営に直接影響する改正として意識しておきたいのは、以下の2点である。

改正点1:健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化

これは患者案内に関わる。令和6年12月に健康保険証の新規発行が終了し、令和7年12月には現行の健康保険証が使えなくなる予定だったが、柔整施術所は引き続き紙の健康保険証による資格確認が可能であり、患者がマイナンバーカードを持っていない場合でも施術を断る必要はない。保険者が発行する「資格確認書」(マイナンバーカードを取得していない・紛失した人向け)も、施術所の窓口で受け付けられる。

ただし、窓口説明は丁寧さが求められる。患者がマイナンバーカードを保険証として使いたい場合、「整骨院ではマイナンバーカードによる資格確認はできません。健康保険証または資格確認書をお持ちください」と案内する必要があり、説明が不足すると、患者が「マイナンバーカードが使えないのは不便だ」と感じる可能性があるため、受付スタッフ間で言い回しを共有しておく方がよい。受付共有が要る。

改正点2:マイナンバーと預貯金口座の紐付け義務化

こちらは経営者側の論点である。令和3年のデジタル改革関連法で、金融機関に対し、顧客の預貯金口座とマイナンバーの紐付けを求める制度が導入された。これは主に税務調査・相続手続きの効率化を目的としており、整骨院の事業用口座も対象となるが、紐付けは任意であり、院長が拒否しても罰則はない。

実務的な恩恵は限定的である。紐付けのメリットは、相続時に被相続人(院長)の口座を一括照会できることだが、整骨院経営では事業承継(院長の交代・分院の独立)の際に、口座の名義変更や新規開設が必要になるため、現場での利点は大きくない。一方で、税務調査で過去の取引履歴が一括で把握されやすくなるため、自費収入の計上漏れや経費の私的流用がある場合はリスクとなる。両面で考えるべきだ。

院内でのマイナンバー取り扱い:チェックリスト

確認すべき項目は次のとおりである。自院のマイナンバー管理体制を見直す際の土台になる。

  • スタッフからマイナンバーを取得する際、利用目的(社会保険・雇用保険・源泉徴収票作成・給付金申請)を書面で明示しているか
  • マイナンバーを記載した書類(源泉徴収票の控え、社会保険資格取得届の控え等)を、施錠可能なキャビネットまたは金庫に保管しているか
  • マイナンバーを含む書類をメールで送信する際、ファイルをパスワード保護し、パスワードは別の手段で伝えているか
  • 退職したスタッフのマイナンバーを、法定保管期間(源泉徴収票7年、社会保険2年、雇用保険4年)経過後に廃棄しているか
  • マイナンバーを廃棄する際、シュレッダーで裁断するか、専門業者に依頼しているか
  • クラウド給与システムを使っている場合、退職者のマイナンバーが自動で削除される設定になっているか
  • 院長自身のマイナンバーカードを取得し、e-Taxでの確定申告を行っているか(青色申告特別控除65万円を受けるため)
  • 患者から「マイナンバーカードで保険証確認できますか」と聞かれた場合の説明を、受付スタッフに共有しているか

分院展開時のマイナンバー管理:本院・分院の役割分担

分院展開では、管理の設計が実務を左右する。マイナンバーの管理権限を本院に集約するか、分院ごとに管理者を置くかは経営判断のポイントであり、人事・給与業務を本院の事務担当者が一括で行う場合、分院のスタッフのマイナンバーも本院で保管することになるため、この場合は分院から本院へのマイナンバーの送付方法(郵送・電子送信)まで安全管理措置の対象となる。厚生労働省「柔道整復療養費検討専門委員会(第47回)資料」では、柔道整復師施術所のうち個人開設が約7割、法人開設が約3割となっており、分院展開を行う法人形態の施術所では、本院での人事給与一元管理と分院ごとの独立管理の選択が組織設計の分岐点となる。

分院ごとに管理者を置く場合は、各分院の院長または事務責任者がマイナンバーを取り扱うことになるが、個人情報保護委員会のガイドラインでは「取扱責任者」を明確にすることが求められているため、分院長が取扱責任者を兼務するなら、施錠保管や廃棄記録を含む安全管理措置を十分に理解している必要がある。責任の所在が要点になる。

実務では委託を組み合わせるケースも多い。社会保険労務士に人事・給与業務を委託している整骨院では、マイナンバーの取り扱いも社労士に一任することがあり、この場合、施術所は「提供元」として、社労士は「委託先」として、それぞれ安全管理措置を講じる義務がある。委託契約書には、マイナンバーの取扱いに関する条項(秘密保持・再委託の禁止・漏洩時の損害賠償)を明記する。契約で担保したい部分だ。

次の一手:マイナンバー管理の実務を最小コストで整える

着手の順番が大切である。整骨院でのマイナンバー運用は患者向けの業務ではなく、院内のスタッフ管理に限定されるため、まず取り組みたいのは、入社時の個人情報取得同意書の整備であり、利用目的を明示した書面を1枚用意し、雇用契約書とセットで署名をもらう運用を固めることが出発点になる。

次に必要なのは保管体制の明確化だ。マイナンバーを記載した書類の保管場所を決め、院長以外がアクセスできないようにする。小規模院であれば、施錠可能なキャビネット1台で足りる場合が多い。クラウド給与システムを導入している場合は、退職者のマイナンバーが自動削除される設定を確認し、法定保管期間経過後のデータ削除を忘れないようにしたい。

最後は説明資料である。スタッフへの説明資料を作り、「マイナンバーは社会保険・雇用保険・源泉徴収票の作成に使います」「コピーを取った後は原本を返却します」「退職後は法定期間経過後に廃棄します」の3点をA4用紙1枚にまとめて渡すだけでも、運用のブレは減る。院内の実務を最小コストで整えるうえで、まず必要なのは複雑な仕組みではなく、手順の明文化にほかならない。

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この記事は「整骨院の保険請求・制度・広告規制まとめ」の関連記事です。制度・保険に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。