野本鍼灸整骨院の採用戦略|柔整師・鍼灸師が集まる求人設計と定着化の実務

野本鍼灸整骨院のような鍼灸整骨院が採用で成功するには、求人票の作り込みより先に「誰に来てほしいか」の人材要件定義が9割を決める。

主要データ

  • 就業柔道整復師数:約7万4千人厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年度)
  • 全国の施術所数(接骨院・整骨院):約5万件超(厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年度))
  • 整骨院・接骨院の市場規模:数千億円規模矢野経済研究所 整骨院・接骨院市場に関する調査(2023年)
  • 柔道整復師国家試験受験者数:近年は減少傾向が続いており、求職者の母数自体が縮小している(厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年度))

「求人を出せば来る」という前提が崩れている理由

以前とは違う。鍼灸整骨院の採用では、いまだに「求人サイトに掲載すれば応募が来る」と見ている院長もいるが、施術所数に対して柔整師・鍼灸師の就業者数が相対的に希少になりつつある現実を踏まえると、その見方だけでは足りない。

就業柔道整復師数が約7万4千人(厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年度))である一方、施術所数は約5万件超であり、単純計算でも1施術所あたり1〜2名の柔整師しか存在しないことになるため、チェーン院や大手が複数名を抱えている実情まで考慮すると、個人院や中小規模院に届く求職者はさらに限られてくる。

つまり、採用力は求人票の見栄えだけでは決まらない。院内の制度設計と、外部への情報発信の密度が問われる。野本鍼灸整骨院のように「鍼灸」と「柔整」を併せ持つ複合院は対象職種が広いぶん可能性もあるが、誰に向けた募集なのかを絞り込まないまま発信すると、結果として誰の心にも残らない求人になってしまう。分かれ目はそこだ。

採用活動を始める前に固める「人材要件定義」とは?

先に決めるべきものがある。採用基準の明文化だ。現場では「とにかく即戦力が欲しい」と口では言いながら、実際には経験年数だけを見て採用を進めてしまい、その結果として院の方針と噛み合わず、半年以内の離職を招く流れが繰り返されやすい。

人材要件定義には、次の3軸で整理するのが実務上の鉄則になる。

  • スキル要件:柔整師・鍼灸師・あはきのどの免許を優先するか。保険対応のみか、自費施術メニューを担えるレベルを求めるか
  • 価値観要件:患者への接し方、院の理念(地域密着型なのか、技術特化型なのか)とのフィット感
  • 行動特性要件:主体的に動けるか、指示待ちのほうが管理しやすいのか(院の体制による)

とくに鍼灸整骨院では、柔整師と鍼灸師で保険の取り扱いが大きく異なるため、採用要件を曖昧にしたまま募集を始めると、面接段階では好印象だった人材であっても、入職後の役割設計で行き違いが起こりやすく、現場の負担だけが増えることになりやすい。柔整師は受領委任で保険請求が可能だが、鍼灸師(あはき)は同意書取得が前提になるため、採用した鍼灸師に「保険の患者を多く担当させたい」という要件があるなら、あはきの保険請求フロー経験者まで絞って考える必要がある。この前提が抜けたまま採用広告を出している院は少なくない。

どこで求人を出すべきか?チャネル別の特性と選び方

媒体選びで差がつく。求人チャネルは複数あるものの、院の規模、使える予算、そして採りたい人物像によって現実的な選択肢はかなり絞られるため、手当たり次第に出すよりも、狙いを定めた設計のほうが動きやすい。以下に鍼灸整骨院採用における主要チャネルを整理する。

チャネル

向いているターゲット

費用感

注意点

柔整・鍼灸専門求人サイト(各種)

転職活動中の有資格者

掲載型〜成功報酬型

競合院と横並びになりやすく差別化が必要

Indeed・求人ボックス等の総合求人サイト

幅広い層・地元密着採用

クリック課金〜無料掲載あり

有資格者のみに絞るため検索流入の質が落ちやすい

養成校への学校訪問・求人票送付

新卒・第二新卒

低コスト〜無料

柔整師国試前後のタイミングが勝負。関係構築に時間がかかる

SNS(Instagram・X・YouTube)

院の雰囲気に共感した層

ほぼ無料(運営工数あり)

発信継続が前提。短期では効果が出にくい

スタッフからのリファラル(紹介)

文化フィットが高い人材

インセンティブ設計次第

紹介インセンティブの設計が甘いと機能しない

実務で考えるなら、年商3,000〜5,000万円規模の鍼灸整骨院では、専門求人サイト1媒体に養成校へのアプローチを組み合わせる2本柱が現実的であり、費用対効果を見やすいだけでなく、どの層に届けたいのかという対象者の解像度も保ちやすい。一方、SNS採用は中長期の積み上げに向いた施策であるため、今すぐ人手が必要な局面でそこに頼り過ぎると、応募が来ない期間だけが伸びてしまう。順番を誤らないことだ。

採用力を上げる求人票の書き方:野本鍼灸整骨院型の複合院に効く設計

求人票は単なる募集文ではない。広告であり、同時に院長の経営思想を見せる文書でもある。柔整師・鍼灸師は技術職だからこそ、「何を学べるのか」と「どう評価されるのか」の2点をかなり細かく見ている。

鍼灸整骨院の求人票で読み飛ばされやすいのは、「アットホームな職場」や「やる気のある方歓迎」といった抽象表現であり、候補者から見ると判断材料がほぼ増えないため、印象にも残りにくい。代わりに必要なのは、入職後の姿を具体的に想像できる情報であり、日々の業務量、担当領域、評価の仕組み、教育体制までを一つずつ言語化して示すことだ。代わりに盛り込むべき要素は以下の通りになる。

  • 月間患者数と保険・自費の比率:例「月間延べ600〜700名。うち自費比率は約35〜40%」のように具体的に示す
  • 施術メニューの具体名:鍼灸整骨院であれば、柔整施術と鍼施術のどちらを主軸にするか、ほぐし・テーピング・物理治療機器の使用有無
  • 評価制度の概要:賃金テーブルが存在するかどうか。昇給・賞与の条件を明示する
  • 研修・OJT体制:新卒・第二新卒向けには特に「誰が教えるか」「習得までの期間目安」を記載する
  • 院の患者層と地域特性:高齢者が中心か、スポーツ系が多いか。これだけで「自分が活躍できるか」のイメージが変わる

候補者が見ているのは条件表だけではない。一般論としては「給与・休日・福利厚生を充実させれば応募が増える」と語られがちだが、柔整師・鍼灸師採用の実務では、スキルアップの機会と評価の透明性のほうが定着に強く影響しやすく、給与はまず応募の土台をつくる条件として機能することが多い。入職後に残るかどうかを左右するのは、成長実感と処遇への納得感だ。

新卒採用で失敗しないためのポイントは?

新卒採用は育成前提で考える。即戦力にはなりにくいが、院の文化を形づくる中長期の投資である。柔整師国試の合格発表は例年3月中旬前後であるため、その前後2〜4週間は動きが活発になりやすく、養成校へのアプローチも遅くとも前年の10〜11月には始めておきたい。1ヶ月の遅れが結果を左右することもある。

新卒採用で繰り返される失敗は、採用そのものに力を入れた一方で、育てる仕組みを準備していないことにある。国試に合格しても、実際の施術現場では保険申請のレセプト作成、受領委任の書類管理、患者対応まで覚えることが多く、OJTの内容を体系化していない院では、入職後3〜6ヶ月で「思っていた仕事と違う」という理由の退職が起こりやすい。

OJT体制として最低限整備すべき項目は次の5点だ。

  1. 入職後1〜2週間の「見学・同行フェーズ」の設定
  2. 受領委任・療養費請求の基本を座学で教えるプログラム(実務担当者が講師を務める)
  3. 施術を独り立ちさせるまでの到達基準の明文化(「何件こなしたら」ではなく「何ができたら」で定義)
  4. 月1回以上の1on1面談(不安や疑問を吐き出せる場)
  5. 半期ごとの目標設定と評価フィードバック

制度は作るだけでは足りない。1on1面談は実施しただけで満足しやすく、記録を残さず翌月のフォローもない状態では、スタッフ側に「話は聞いてもらえたが何も変わらない」という感覚が積み上がるため、かえって不信感を招くこともある。運用まで回って初めて制度と言える。

離職率を下げるために整骨院が整備すべき制度とは?

採用より難しいのは定着だ。せっかく採用できても、早期離職が続けば労力もコストも回収しにくい。鍼灸整骨院は小規模経営が多く、人間関係やその場の空気に依存した運営になりやすいが、そうした曖昧さが離職の引き金になることは珍しくない。

定着率を高める制度設計の核心は「賃金テーブルの整備」と「キャリアパスの可視化」の2つだ。

賃金テーブルとは、経験年数・資格・担当患者数などに応じた給与基準を表にしたものだ。「院長の気分で決まる」という受け止め方は採用市場でも広がっており、求人票に「賃金テーブルあり」と記すだけでも安心材料になりやすいことが、現場の感覚として見えている。

キャリアパスの可視化とは、「この院で何年働けばどうなれるか」を示すことを指す。分院展開を視野に入れている院であれば「院長候補としての育成コース」を設けることもあるし、鍼灸整骨院では、鍼灸師が柔整の知識を深める機会や、柔整師がスポーツ分野・訪問施術へ広げていく道筋を見せることもできる。

見落とされがちなのは、制度整備が人間関係の安定にもつながる点である。公的な統計データは限られているものの、施術所の規模別に見ると、スタッフ3名以下の院では人間関係の問題が離職理由の上位を占める傾向があり、賃金テーブルやキャリアパスの整備は、その予防策としても機能しやすい。評価基準が明確になるほど、不公平感から生じる摩擦を抑えやすいからだ。

採用広報としてのSNS・ホームページ活用:何を発信すれば刺さるのか?

見せ方で印象は変わる。採用ページを持たない院は求人サイトへの依存が強くなりやすく、そのぶん採用コストも膨らみやすい。自院のホームページに「採用情報ページ」を設けるのは最低限として、その先で差がつくのは、院の日常が伝わる発信を続けられるかどうかだ。

具体的に発信すべき内容は次の通りになる。

  • 院長・スタッフのプロフィールと専門領域(「なぜこの仕事を選んだか」を含む)
  • 勉強会・セミナー参加の記録(技術向上への姿勢を示す)
  • 患者との関わりを描いたエピソード(個人情報に配慮した形で)
  • スタッフの1日のタイムスケジュール(働くイメージを持たせる)
  • 評価制度・賃金テーブルの概要(数字は見せなくても「制度がある」と示すだけで信頼につながる)

ここで焦りは禁物だ。InstagramやYouTubeを使った採用広報は即効性こそ高くないものの、発信を重ねるほど院の文化に共感した応募者が集まりやすくなり、求人媒体だけでは伝えにくい空気感や価値観を補う役割を果たす。一方で、採用広報を患者向け発信と兼用している院では、患者が求職者を紹介してくれる流れにつながることもあり、地味でも積み上げる意味は大きい。

採用面接で見落とされやすい注意点は?

面接は選別の場である前に、相互確認の場でもある。院長が候補者を見るだけでなく、候補者もまた院を見ているため、その前提を忘れた面接は、条件のよい人材ほど辞退につながりやすい。

面接で起こりやすい失敗パターンを挙げる。

  • 院長が話しすぎる:院の説明に時間を取られ、候補者の価値観・志向を引き出せないまま終わる
  • 抽象的な質問しかしない:「なぜ整骨院を目指したのですか」という質問だけでは実務適性が測れない。「前職(または実習)で最も難しかった患者対応を教えてください」のように具体的なエピソードを引き出す行動面接が有効だ
  • 労務条件を明示しない:残業時間・休日・シフトの仕組みを面接で伝えないまま採用し、入職後に「聞いていなかった」というトラブルが起きる

また、労働契約法・労基法の観点からは、採用時に労働条件通知書を書面または電磁的方法で交付する義務があるため、口頭説明だけで済ませてしまう運用は後日のトラブルにつながりやすい。候補者側の不信感も招きやすいので、入職前に労働条件通知書と雇用契約書を揃えておくことは、採用実務の基本として外せない。

採用に関する労務管理の注意点:整骨院が特に押さえるべきこと

小規模院ほど見落としやすい。鍼灸整骨院の採用では、「人数が少ないから大きな問題にはなりにくい」という認識から労務管理の抜け漏れが生まれやすいが、労働基準法・最低賃金法・社会保険の適用は規模にかかわらず押さえておくべき前提だ。

特に注意が必要な論点は以下の3点だ。

  • 試用期間中の賃金:試用期間中でも最低賃金を下回ることは違法だ。「研修期間は時給850円」という設定が最低賃金を下回っている場合、遡及して差額を支払う義務が生じる。2026年7月時点で東京都の最低賃金は1,163円(東京都産業労働局)。他都道府県も同様に毎年改定されるため、求人票作成前に必ず確認する
  • 社会保険の適用:週30時間以上勤務のパート・アルバイトは社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務がある。特定適用事業所の範囲が順次拡大されているため、現行ルールを逐次確認する必要がある
  • 固定残業代の設計:「みなし残業代を含む月給◯◯万円」という設定は、残業時間の上限を超えた場合に追加支払い義務が発生する。設計が甘い場合、未払い残業代問題に発展するリスクがある

制度は毎年のように動く。社会保険や労働条件の細部は更新が入るため、社会保険労務士への相談を前提にしながら運用を見直すほうが実務では安全であり、院内判断だけで固定してしまうと、気づかないうちにルールとのずれが広がっていく。慎重さが欠かせない。

よくある採用の失敗と対処法

失敗の型はある。鍼灸整骨院の採用では、表面上は別の問題に見えても、掘り下げると原因が似ていることが多く、求人票、面接、育成、評価制度のどこに詰まりがあるかを見極める必要がある。以下に、繰り返し起こりやすい失敗パターンと対処法を整理する。

失敗パターン

原因

対処法

応募がほとんど来ない

求人票が抽象的で他院との差別化ができていない

月間患者数・自費比率・OJT体制を数字で示す

内定辞退が多い

面接で院の魅力が伝わっていない・条件が不透明

面接前に院の動画や採用ページを見せ、条件を明示する

入職後6ヶ月以内の離職

OJT体制が整っておらず「放置」状態になっている

OJTプログラムの明文化と月1回の1on1面談の実施

経験者を採用したが院の方針と合わない

面接でスキルのみ確認し価値観の確認を怠った

行動面接と「この院の施術方針」の事前説明を組み合わせる

優秀なスタッフが突然退職する

評価・昇給の仕組みがなく将来像が描けなかった

賃金テーブルとキャリアパスの整備を優先する

次にやるべきこと:採用活動のロードマップ

採用は欠員時だけ動けばよい時代ではない。困ったときに求人を出すという受け身の姿勢では回りにくくなっており、採用を経営の一機能として位置づけたうえで、欠員の有無にかかわらず常時動かす仕組みをつくるほうが現実的で、結果として慌てた採用も減らしやすい。

まず今週中に取りかかれるのは、自院の「採用条件の棚卸し」である。賃金テーブルがあるか、OJTプログラムが文書化されているか、採用情報ページがホームページにあるか。この3つを確認し、もし欠けているものがあるなら、求人媒体への掲載を急ぐより先に整備を優先したい。順番が成果を左右する。

次に1〜2ヶ月の間で進めたいのが、養成校へのアプローチと求人票の改訂だ。柔整師国試は例年2月下旬〜3月上旬に実施されるため、前年の9〜10月から学校訪問を始めておくと翌春の新卒採用に間に合いやすく、在校生との接点づくりという意味では、勉強会の講師として学校に関わる動きも長い目で見れば有効になりやすい。

そのうえで、3〜6ヶ月で目指したいのが採用広報の継続発信である。InstagramまたはYouTubeを週1〜2回更新し、院の日常、技術、スタッフの姿を見せ続ける。この積み重ねが、採用の常設窓口として機能していく。

もし採用に行き詰まりを感じたなら、それは求人票の文面だけの問題ではなく、院の制度設計に見直しが必要というサインかもしれない。求人の反応が薄い、内定辞退が続く、入職後すぐ辞めるといった状態が見えたときは、OJT、賃金テーブル、キャリアパスの整備に立ち返るべきタイミングだ。そこを外さないことが重要である。

この記事は「整骨院の採用戦略|求人・面接・定着の仕組みづくり」の関連記事です。採用・育成に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。