「こころ整骨院」の採用で悩む院長が見落としがちな採用戦略の全体設計と、柔整師国試合格後の離職を防ぐ定着施策を実務視点で解説する。

主要データ

  • 就業柔道整復師数:約7万9千人厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年末現在)
  • 施術所(整骨院・接骨院)数:約5万施術所(厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年末現在))
  • 柔道整復師国家試験合格者数:近年は年間約3,000〜3,500人台**で推移(厚労省 国家試験合格発表資料、2023〜2025年度実績)
    • 医療・福祉業界全体の有効求人倍率:3倍超(厚生労働省 職業安定業務統計、2024年度)

採用に失敗する整骨院の共通パターンとは?

見落としは前提にある。採用活動で先に見直すべきなのは求人票そのものではなく採用の前提設計であり、「こころ整骨院」という屋号で地域に根ざした院を経営する先生の多くは、「柔整師が来てくれない」という表面の課題に意識を向ける一方で、「なぜ来ないのか」の構造分析を飛ばしてしまうため、打ち手がどうしても場当たり的になりやすい。

数字を見ると早い。全国の施術所数は約5万施術所に達している一方、年間の柔整師国試合格者数は近年3,000〜3,500人台で推移しており、単純計算でも新卒1人に対して施術所が十数件以上競合している構図になるため、採用はすでに「待てば来る」市場ではない。

しかも競争相手は同業だけではない。医療・福祉業界全体の有効求人倍率が3倍を超える状況では、柔整師に限った採用競争はさらに厳しくなりやすく、そのため採用は経営戦略の中核として扱い、集患と同等以上の優先度で設計しなければ機能しにくい。ここが分岐点だ。

「こころ整骨院」の採用で通用する戦略と通用しない戦略の違いは?

差は表面ではない。採用戦略には「Before(多くの院がやっていること)」と「After(機能している院がやっていること)」のあいだに明確な断層があり、その差は単なる工夫の多少ではなく、採用を広告出稿の延長として扱うか、それとも経営の仕組みとして扱うかの違いにほかならない。下表はその対比である。

Before(機能しない採用)

After(機能している採用)

求人サイトに出稿して待つ

求人サイト・SNS・学校連携を並走させる

「明るい職場」「アットホーム」の文言だけ

賃金テーブルと評価制度を明示

院長の感覚で選考・不採用理由は伝えない

選考基準を文書化し候補者にフィードバック

入職後の教育はOJT任せ

研修プログラムを入職前に開示する

離職後に初めて原因を考える

1on1面談サイクルで予兆を早期に察知する

媒体だけでは埋まらない。表を見れば分かるように、採用の失敗は「どの媒体を使うか」だけの問題ではなく、院のビジョンと待遇の可視化ができていないことの問題であり、候補者が応募前に知りたい情報を院側が言葉にできていない限り、露出を増やしても精度の高い採用にはつながりにくい。原因はそこだ。

採用プロセスの全体像をどう設計すべきか?

全体で捉える。採用を「求人票を出す→応募が来る→面接する」という3ステップだけで考えると破綻しやすく、実務では前工程の要件定義と後工程の定着設計までを一つの流れとして管理しなければ、採用数が増えても早期離職で帳消しになりやすいため、プロセス全体を通しで設計する視点が欠かせない。実務上、採用プロセスは以下の5フェーズで構成される。

  1. 採用要件の定義(誰を採るかの言語化)
  2. 認知獲得(候補者が院を知るための接点設計)
  3. 応募・選考(エントリーの受け皿と選考フローの整備)
  4. 内定・入職(オファー条件の提示と入職前サポート)
  5. 定着・育成(OJTから評価制度の設計まで)

抜けやすいのは両端だ。特に「こころ整骨院」規模の院では、フェーズ1と5が後回しになりがちだが、採用コストや離職率の見直し効果が大きいのはこの2つであり、入口と出口の設計が弱いままでは、途中の面接技術だけを磨いても結果は安定しにくい。ここは外せない。

フェーズ1:採用要件の定義で整骨院が見落としやすいポイントは?

出発点は曖昧にできない。採用要件は「柔整師の免許を持っている」だけでは機能しにくく、院の経営フェーズや患者層に合わせた要件設定を先に行い、誰を採るのかだけでなく誰を採らないのかまで含めて言語化しておく必要があるため、採用の入口で解像度を上げることが後工程のミスマッチ抑制に直結する。具体的には以下の軸で整理する。

  • 即戦力か育成前提か:新卒(国試合格後1〜2年未満)か、経験者(3年以上)かで求人媒体・賃金テーブルが変わる
  • フルタイムかパートタイムか:産育休カバーや繁忙期補強なら週3〜4日勤務の柔整師を対象に含める
  • 施術スキルの優先度:スポーツ外傷対応が多い院か、変形性関節症など慢性疾患対応が中心かで求めるスキルセットが異なる
  • 院の文化に合うか:患者とのコミュニケーション量・院内ルールへの適応性

要件の言語化は効く。たとえば採用要件に「自費メニューの提案に抵抗がない人」と明記すると、院内で評価基準をそろえやすくなるのみならず、候補者自身が自分に合うかどうかを応募前に判断しやすくなるため、応募数だけでは見えないミスマッチの抑制にもつながる。実務的な差だ。

フェーズ2:「こころ整骨院」の採用認知をどう高めるか?

認知は設計で差が出る。認知獲得の手段は大きく3つに分類されるが、どれか一つに依存するのではなく、候補者が情報に触れる経路を複線化しておくことで、院名を知る段階から応募判断までの離脱を抑えやすくなり、結果として応募の母集団形成も安定しやすい。

求人媒体の選定

基本の導線である。柔整師の採用で実績が高い媒体は、業界特化型の求人サイト(SEEK系・柔整ナビ系)とIndeedを活用した広域リーチの組み合わせであり、掲載費用は媒体によって月数万〜数十万円規模まで幅があるものの、費用対効果の測定では「応募数」だけでなく「選考通過率」と「内定承諾率」を見るべきで、応募数が多くてもミスマッチ率が高ければ採用コストは膨らむ。

養成校との連携

新卒では依然として有力だ。新卒採用では養成校(3年制専門学校・4年制大学)との連携が有効であり、学校の就職担当窓口への院見学受け入れや特別講師派遣などを通じて関係を構築しておくと、国試合格前の2月〜3月時点で内定を出せるため、競合の多くが内定出しを4月以降にする状況と比べて、2〜3カ月の先行アドバンテージが生まれる。

SNSによるブランディング

雰囲気は見られている。Instagram・X(旧Twitter)で院内の日常や施術スタッフのキャリアを発信している整骨院は、採用候補者の「院の雰囲気確認」ニーズに応えやすく、求人票だけでは伝わらない院の文化や価値観を非同期で届けられる点が強みとなっているため、週2〜3回の投稿を6カ月以上継続する運用は地味でも意味が大きい。

フェーズ3:整骨院の採用選考で外してはいけない評価軸は?

一度の面接では見え切らない。選考フローを「書類→面接1回→採否」にとどめている院は少なくないが、1回の面接で把握できる情報には限界があり、特に「患者対応の質」や「チームワークへの適性」は会話だけでは見えにくいため、評価の場面を分けて観察する設計が欠かせない。以下のフローを参考にしてほしい。

ステップ

目的

評価ポイント

書類選考

基本要件の確認

資格・経歴・志望動機の整合性

一次面接(院長または副院長)

価値観・動機の確認

離職理由・キャリアビジョン・コミュニケーション

見学・体験勤務(半日〜1日)

現場適性の確認

患者への接し方・スタッフとの相性・施術動作

二次面接(院長)

条件調整と意思確認

入職意欲・賃金条件の合意形成

運用面の確認も欠かせない。体験勤務(インターン)は労働基準法上の「労働」に当たりうるため、半日以上の場合は日給相当の賃金を支払うことが前提となり、運用を誤ると採用上の印象だけでなく労務リスクにもつながるので、詳細な判断については社会保険労務士に確認するのが現実的である。慎重さが要る。

フェーズ4:内定・入職フェーズで離職率を下げる準備とは?

空白期間を放置しない。内定承諾から入職日までの期間は、最短でも数週間、新卒なら4〜5カ月に及ぶことがあり、そのあいだ候補者は「本当にここで良いか」を何度も見直すため、院側が接点を持たないままでいると、気持ちが競合先へ傾いたり不安が膨らんだりしやすい。何もしないのは危ない。

準備は大がかりでなくてよい。具体的なアクションとして有効なのは以下の3点であり、どれも特別な予算がなくても始めやすい一方で、放置すると辞退や早期離脱の火種になりやすいため、内定後の運用として先に型を決めておくと回しやすい。

  • 定期的な連絡:月1〜2回、院長または先輩スタッフからのテキストメッセージ。近況報告・院のニュースを送るだけで「つながっている感」を作れる
  • 入職前勉強会:院で使うカルテシステムや予約管理ツールの概要を事前に案内する。入職後の「わからない不安」が事前に軽減される
  • 労働条件通知書の早期交付:雇用形態・勤務時間・賃金テーブルを書面で明示する。これは労働基準法上の義務でもあるが、早く渡すほど候補者の安心感が高まる

フェーズ5:整骨院の定着率を左右するOJTと評価制度の設計

採用は入職で終わらない。離職は採用だけの問題ではなく定着設計の弱さから生まれることが多く、業界全体で見ると入職後1年以内の離職が一定数発生することについては公的な統計データが限られているものの、医療・福祉系の若年層離職率は他産業と比較して高い水準にあることが労働力調査から読み取れるため、採用後の受け皿づくりが重要になる。

OJTのポイント

教え方には型がいる。OJTを「先輩について仕事を覚える」だけで終わらせると、教える側も教わる側も消耗しやすいため、入職後90日間のロードマップを事前に作成し、何をいつまでに覚えるのかを週単位・月単位で区切って共有しておくことが重要であり、その積み重ねが不安の軽減と立ち上がり速度の安定につながる。以下の粒度で目標を設定する。

  • 1〜2週目:受付フロー・カルテ記載・保険請求の基本操作を習得
  • 3〜4週目:初診患者への問診フローを先輩同席のもと実施
  • 2カ月目:単独での施術対応(軽症の捻挫・打撲系)を開始
  • 3カ月目:月初の療養費レセプト作業に参加し、受領委任の実務を体験

評価制度と賃金テーブルの透明化

不透明さは不安を生む。整骨院では評価制度がない、あるいはあっても非公開という院が依然として多いが、これは若手スタッフの「ここにいて上がるのか」という将来不安を放置することを意味し、努力の方向が見えない職場ほど定着しにくい傾向がある。

見える形にすることが大切だ。賃金テーブルは「新卒初年度・2年目・3年目・主任・副院長」の5段階程度を設定し、昇給の基準(患者数・技術評価・資格取得など)を数値で定義することで可視化しやすく、昇給幅は院の収益構造と相談しながら決めるとしても、「頑張れば上がる」という曖昧な約束より、「〇〇を達成したら〇〇円昇給」の方が採用時にも在職中にも伝わりやすい。納得感の差だ。

「こころ整骨院」が採用で失敗しないための法令チェックリスト

法令確認は後回しにしにくい。採用・労務管理に関連する法令は複数あり、整骨院規模でも遵守が求められるため、採用活動そのものに意識が向きやすい時期であっても、書面交付や保険加入、求人票記載の整合性といった基本事項を外さないことが重要であり、特に見落としやすい項目は先に確認しておきたい。

チェック項目

根拠法令

よくある違反パターン

労働条件通知書の交付

労働基準法第15条

口頭のみで書面を渡さない

雇用保険・社会保険の加入

雇用保険法・健康保険法

週30時間以上勤務なのに未加入

時間外労働・36協定の締結

労働基準法第36条

協定なしで残業させている

求人票の虚偽記載禁止

職業安定法第65条

実際の給与と求人票の記載が乖離

就業規則の作成・届出

労働基準法第89条

常時10人以上なのに未作成

小規模でも文書化の意義は大きい。常時10人未満の施術所でも、就業規則を「作成して従業員に周知する」ことは労使トラブルの予防に役立つ実務上の有効策であり、労働基準監督署への届出義務が発生する規模でなくても、運用ルールを文書でそろえておく意味は小さくない。備えにほかならない。

採用を現場で機能させる5つの応用コツ

ここからは運用の話になる。ここまでのフェーズ設計を土台に、現場で即実行しやすい応用コツを5つ挙げるが、どれも大掛かりな制度改編を前提とするものではなく、院内での認識合わせと情報整理から始められるものばかりである。

1. 「採用ペルソナシート」を1枚作る

まずは1枚に落とし込む。 「どんな人を採りたいか」を院長の頭の中だけに置かず、年齢・経験年数・重視するキャリア・苦手な環境などを1枚のシートに書き出すことで、求人票の文言が具体化し、面接での評価基準も統一しやすくなる。最初の一歩だ。

2. 既存スタッフをリファラル採用の起点にする

近い接点は侮れない。知人・同期への紹介を通じた採用(リファラル採用)は、一般求人媒体経由より定着率が高い傾向があり、紹介インセンティブ(内定承諾後に紹介者へ一定の報奨を支給)の制度を設けると、スタッフが自発的に動くきっかけになりやすいため、紹介料の支払い方法は賃金ではなく「一時金」として設計し、税務・社保の扱いを税理士に確認しておくと運用しやすい。

3. 「入職後の1日のスケジュール」を求人票に掲載する

抽象語だけでは伝わりにくい。 「残業なし」「和気あいあい」のような表現より、具体的な1日の流れ(朝礼・施術枠数・昼休憩・終礼・勉強会の頻度)を書いた求人票の方が応募の質を高めやすく、候補者は「自分がそこで働く姿」をイメージしやすいため、応募判断の精度も上がる。具体性が効く。

4. 採用コストを「1採用あたり単価」で管理する

数字で把握する。媒体費用・採用に割いた面接時間(院長人件費換算)・研修コストをまとめて集計し、1名採用にかかる総費用を把握することで、媒体の費用対効果比較と定着投資の優先順位づけが感覚論ではなく、院内で共有しやすい判断材料として整理できる。管理が変わる。

5. 「辞めた理由」を次の採用設計に必ず反映する

退職理由は残る。退職者には退職後1〜2カ月が経ってからヒアリングを行うと、在職中には言いにくかった本音が出やすく、その情報を採用要件・OJT設計・評価制度の見直しに反映させる運用を続けることで、採用の精度は年を追うごとに高まりやすい。蓄積が差になる。

次に動くべきアクションリスト

動き出しは早いほどよい。採用は空きが出てから考えるものではなく、「院のビジョンを実現するための計画的な人材調達」として設計する必要があり、欠員補充だけを目的にした後追いの採用では、条件面でも情報発信でも準備不足になりやすいため、経営計画の早い段階に組み込んでおく姿勢が重要になる。後手では苦しい。

  • 採用要件の言語化(ペルソナシートの作成)
  • 求人票の賃金テーブル・評価制度の明示化
  • 養成校1〜2校への見学受け入れ打診
  • 入職後90日ロードマップの作成
  • 労働条件通知書のひな型整備(社労士確認済みのもの)
  • 採用コスト管理シートの作成(媒体費・面接時間・研修費を統合)
  • 退職者ヒアリングフォームの作成

よくある質問

この記事は「整骨院の採用戦略|求人・面接・定着の仕組みづくり」の関連記事です。採用・育成に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。