柔道整復算定基準とは、柔道整復師が健康保険(療養費)を用いた施術を行う際に、各施術行為に対して請求できる点数・金額・算定条件を定めた公的ルールの体系のことです。

主要データ

算定基準の「1点の意味」を誤解していないか?

問題はここにある。 「点数はレセコンが計算してくれる」と考えたまま運用している院長は少なくないが、その前提で日々の入力を進めると、返戻が届いた段階で初めて算定ルールの重みを実感することになりやすく、機械に任せているつもりでも実際には請求判断の土台そのものを見落としているため、見えにくい損失が静かに積み上がっていく。

柔道整復の算定基準は、医科の診療報酬点数表とは根拠法令が異なる。医科は健康保険法76条に基づく「診療報酬点数表」(1点=10円)を使う一方で、柔道整復の療養費は同法87条に基づく「現物給付の例外」として整理されており、請求単位は「円」で直接表記されるため、点数換算の概念が存在せず、「1点何円か」という問い自体が成り立たない体系となっている。この違いを曖昧にしたままだと、レセコン設定の誤りのみならず、スタッフ間の引き継ぎでも認識のずれが起こりやすい。基礎の確認が先だ。

改定対応も外せない。算定基準の骨格は厚生労働省の告示・通知として定期的に見直され、直近では厚生労働省 保発0601第4号(令和8年6月1日)により令和8年7月1日から改定が施行されており、初検料は1,550円から1,560円へ、再検料は410円から420円へそれぞれ引き上げられたが、改定が公表されたからといってレセコンのマスタが自動で正しく更新されるとは限らないため、ベンダーへの確認だけで済ませず、自院側でも設定と請求フローを点検しておく必要がある。ここで差がつく。

算定基準の構造——何をどの順番で読むべきか?

まず全体像だ。算定基準は大きく「基本料金」「加算」「逓減」「支給申請に関する手続き要件」の四層で成り立っており、この順序を意識せずに請求を組み立てると、加算の取りこぼしが起きる一方で逓減適用を誤った過剰請求も起こりやすく、売上計画と実際の請求額の双方にずれが生まれやすい。読む順番には意味がある。

基本料金は初検料・再検料・施術料(後療料)が中心だ。初検料は最初の受診時に1回のみ算定できる。再検料は令和8年7月改定以降、初回後療日および2回目の後療日に算定できる仕組みに変更されており、改定前は最初の後療日のみだったため、この差分を見落として旧ルールのままレセコンを使い続けると、算定できるはずの再検料420円を取りこぼす可能性が高まる。

逓減制は、同一月内に施術が一定回数を超えた場合に後療料が段階的に低くなる仕組みだ。月の前半と後半で単価が変わる。そのため、繁忙月に来院が集中すると、感覚的な売上見込みと実際の請求額にずれが出やすい。月次試算では、逓減後の単価を前提に置く視点が欠かせない。

加算については、骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷の部位数および種別によって算定項目が変わる。複数部位への施術では、2部位・3部位それぞれに逓減率が適用されるため、部位の組み合わせとその都度の逓減計算は想像以上に複雑であり、レセコン任せにするのではなく受付段階でスタッフが概算を確認できる運用フローまで整えておくと、返戻のリスクを抑えやすい。設計の巧拙が出る部分だ。

算定基準はどのような法的根拠で定められているのか?

法的な土台を押さえたい。算定基準の根拠は、健康保険法87条(療養費)および関連する厚生労働省告示・通知にあり、告示は法令の一形式として算定基準の「金額」「算定条件」を定める一方で、通知(保発・事務連絡)はその解釈や運用を補足する位置づけにあるため、実務では告示だけを読むのでは足りず、通知まで含めて一体で確認する視点が欠かせない。

混同されやすいのが「療養費の支給基準」と「算定基準」の関係だ。療養費の支給基準は保険者(健康保険組合・協会けんぽ等)が何を支払うかを定めたものであり、算定基準はその支払額を計算するためのルールブックに相当する。両者は表裏一体だが、基準にある項目でも保険者が査定で削ることがある。この実態を軽く見ないことが重要であり、査定された項目を翌月以降も同じ方法で算定し続けると、返戻や減額が繰り返される流れに入りやすい。見直しは早いほどよい。

責任の所在も明確だ。柔道整復師法17条の2に基づく受領委任払いの制度下では、施術管理者が「適正な請求」に責任を負う立場に置かれるため、算定基準の誤適用は院長個人の責任問題に直結しやすく、スタッフ任せの運用では管理が甘くなりやすい一方で、施術管理者の要件である実務経験3年・研修16時間以上が2018年(平成30年)4月から義務化された背景にも、この責任の所在を明確にする意図が見て取れる。任せきりでは弱い。

「算定基準の読み方」と「レセコン任せ」の危険な落差

結論から言う。算定基準を原文で読んだことがない院長のレセコン設定は、そのまま信頼しにくい。理由は単純で、レセコンの初期設定は「標準的な運用」を前提にしており、院の施術スタイルや患者層が少し変わるだけでも加算漏れや確認漏れが構造的に発生しうるため、機械が動いていることと請求が適正に組み上がっていることは同義ではない。ここに大きな落差がある。

典型的な落差が出やすいのは以下の3点だ。

  • 部位数の変動管理:同一患者が月をまたいで施術部位を変えた場合、前月算定分との整合性をレセコンが自動チェックしないケースがある。手動で確認しなければ誤算定が通り続ける。
  • 負傷原因の記録と算定の紐づけ:外傷性の負傷かどうかが算定の前提条件になる。カルテへの記録が曖昧なまま算定すると、審査段階で突き返される。
  • 改定後のマスタ更新漏れ:令和8年7月改定のように年度中に改定が入る場合、自動アップデートのタイミングがベンダーによって異なる。施行日をまたいで旧単価で請求し続けると、差額分が後から問題になる。

運用の差が出る。月に2〜3回は請求データと算定基準原文の突き合わせを行い、繁忙期(新患急増期)には週1回以上確認するサイクルを持つ院は、返戻率が低い傾向を示しやすく、これは公的な統計として断定するものではないものの、実務現場の観察としては無視しにくい差であり、確認頻度そのものが経営管理の質を映していると考えられる。日常の積み重ねだ。

算定基準を経営視点で使う——現場での判断基準

発想を変えたい。算定基準は「請求の上限ルール」であると同時に「売上の設計図」でもあり、1患者あたりの月次請求額の上限は部位数・逓減率・施術頻度の組み合わせでおおむね決まるため、この構造を把握していれば、保険施術のLTV(患者1人あたりの生涯売上)のモデルを現実的な範囲で描きやすくなる。経営数字に直結する視点だ。

保険収入のキャップが見えたとき、次に検討しやすいのが自費移行である。算定基準の枠内で請求を組み立てたうえで、なお患者のニーズに応えきれない部分――例えばセルフケア指導、テーピング指導、予防的なメンテナンスケア――を自費メニューとして提案する流れは、保険と自費の役割分担を明確にしやすいのみならず、院内オペレーションの整理にもつながるため、収益構造を見直す際の現実的な選択肢となりやすい。線引きが要になる。

数字が物語る。令和3年度の柔道整復療養費総額は2,867億円(厚生労働省 保険局調査課「医療保険に関する基礎資料〜令和3年度の医療費等の状況〜」)であり、療養費全体の動向は毎年の改定交渉に影響するため、改定ごとに単価が上下しうる以上、「今の算定基準のまま売上が維持できる」という前提だけで事業計画書を組むのは危うく、改定サイクル(原則2年ごと、ただし年度中の臨時改定もある)を見越して自費売上比率を計画的に引き上げる視点が欠かせない。

最後は行動だ。算定基準の改定通知が出たタイミング、またはレセコンから「月次返戻率が上昇している」アラートが出たタイミングは見直しのサインであり、その場しのぎで修正するのではなく、算定基準の原文と自院のレセコン設定を年2回以上突き合わせる習慣を先に作っておくことが、損失を防ぐうえで再現性の高い手順に近い。先送りは避けたい。