整骨院の固定費と変動費の違いとは、売上の増減に関わらず毎月一定額が発生する費用(固定費)と、患者数や施術数に応じて金額が変わる費用(変動費)を区別する概念です。この分類を正確に把握することが、損益分岐点の算出と経営判断の土台になります。
主要データ
- 就業柔道整復師数:78,666人(厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」、令和7年7月29日公表)
- 柔道整復の施術所数:50,924か所(厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」、令和7年7月29日公表)
- 柔道整復療養費 総額:2,867億円(厚生労働省 保険局調査課「医療保険に関する基礎資料〜令和3年度の医療費等の状況〜」)
固定費の誤認が損益分岐点を狂わせる—なぜ分類が先決なのか?
見落としやすい論点だ。「リース機器の月額は固定費だから経費は把握できている」と考えていても、実際には院内の消耗品や外注費を固定費に混在させたまま損益分岐点を計算している院は少なくなく、そのまま算出された数値は実態とずれやすいため、「黒字のはずなのに手元に残らない」という感覚的な違和感につながってしまう。
これは単なる会計知識の不足ではない。分類基準の揺れである。
整骨院経営では、保険施術の療養費収入と自費施術の現金収入が同時に存在し、しかも月ごとの患者数の振れ幅も小さくないため、固定費と変動費の境界を正確に引けているかどうかが、毎月の資金繰り判断の精度を大きく左右する。厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表)によれば、施術所数は50,924か所、就業柔道整復師数は78,666人に達しており、院間競争が厳しさを増すなかで、コスト構造の把握はいっそう重要になっている。
競争が厳しいほど、このズレは重い。経営の土台に関わる話だ。
整骨院における固定費とは何か?
定義を押さえたい。固定費とは、売上ゼロの月でも変わらず発生するコストの総称であり、整骨院では日々の来院数に関係なく支払いが続く費用を指すため、ここを曖昧にしたまま月次収支を眺めても、実際の収益体質はつかみにくい。
整骨院の固定費として代表的なものは以下の通りである。
- 家賃・共益費:テナント契約に基づく月額費用。居抜き物件でも敷金を除いた月額賃料は固定費に分類する
- 院長・スタッフの固定給:月給制の人件費。時給制パートは変動費に近いが、最低保障時間を設けている場合は固定費部分として区別する
- リース料・ローン返済:施術ベッドや電子カルテ・レセコンのリース月額、開業資金の借入返済額
- 保険料:施術所賠償責任保険や院長の生命保険(法人契約分)
- 通信費:固定回線・Wi-Fi・LINE公式アカウントの月額基本料など定額プラン
- 広告の定額出稿費:MEO管理ツールや自社サイトのサーバー費、Googleビジネスプロフィール管理の月額サービス料
これらは患者が1人も来院しなくても請求される。つまり、固定費の合計額を把握することは「最低限いくら売上が必要か」を逆算するための前提条件であり、この土台が曖昧なままでは、売上目標を立てても現場の行動にまで落とし込みにくい。
先に押さえるべきは、毎月ほぼ動かない支払いである。それが起点になる。
変動費はどう動く?整骨院特有のコスト構造を把握するには?
視点を変えよう。変動費は、施術件数・患者数・売上に連動して増減するコストを指し、来院が増えれば膨らみ、減れば下がるという性質を持つため、固定費と同じ感覚で管理すると実態を読み違えやすい。
整骨院の変動費として現場でよく挙げられるものは次の通りだ。
- 消耗品費:テーピング・包帯・湿布・使い捨て手袋・滅菌パックなど、施術回数に比例して消費されるもの
- 歩合・インセンティブ給:スタッフに対する自費施術の成果連動報酬部分。分単価や客単価に連動する設計が多い
- クレジット決済手数料:回数券・自費施術の決済に課される手数料。売上に対して一定率で発生する
- 洗濯・クリーニング費:タオルやユニフォームの洗濯外注費。患者数が増えると使用枚数が増える
- 外注施術費:業務委託の施術者に支払う報酬。施術件数に応じて変動する
教科書では「人件費は固定費」と整理されることが多いが、整骨院経営の実務では事情が異なり、業務委託、いわゆる歩合制の施術者を抱える院では人件費の一部が変動費として機能するため、表面的な勘定科目だけで判断すると実態を見誤りやすい。
固定給スタッフと業務委託スタッフが混在するなら、両者を明確に分けて管理したい。ここを曖昧にしないことだ。
固定費と変動費の比率が経営体質を決めるのは、なぜか?
焦点は比率にある。固定費比率が高い院は、患者数が落ちたときの損失が大きく、回復まで時間もかかりやすいが、変動費比率が高い院では、売上が落ちた局面でもコストが自然に下がりやすいため、資金繰りの悪化は相対的に緩やかになりやすい。
以下の表で、固定費比率の違いによるリスクプロファイルを整理した。
コスト構造 | 売上が増えたとき | 売上が減ったとき | 典型的な院の形態 |
|---|---|---|---|
固定費比率が高い | 利益率が急伸する | 赤字転落が早い | 固定給スタッフ複数・広いテナント |
変動費比率が高い | 利益率が伸びにくい | 損失が拡大しにくい | 業務委託中心・小規模店舗 |
1人開業の整骨院では、人件費が院長の生活費(役員報酬)に集約されるため固定費がシンプルになりやすいが、スタッフを2〜3名雇用する中規模院では固定給の総額が月次の固定費を大きく押し上げるため、売上が少し落ちただけでも利益が急速に圧迫されやすい。
労働分配率が高止まりすると、自費移行や回数券販売を強化しても利益が残りにくい。比率が体質を形づくる。
固定費・変動費を現場で正しく分類する判断基準は?
判断の軸は明確である。「その費用は患者が来なくても発生するか」という問いを置けば、かなりのケースは分類できるが、実務では契約形態や運用方法によって性質が変わる費目もあるため、グレーゾーンを放置せず、判断ルールを院内でそろえておく必要がある。
- 水道光熱費:基本料は固定費、使用量連動分は変動費。請求書を基本料と従量料に分けて管理するのが精確だ
- 集客広告費(クリック課金型):Google広告などのクリック課金型は変動費。一方、チラシの定期折込など月額固定で契約しているものは固定費に分類する
- パートタイムスタッフの人件費:最低保障なしのシフト制であれば変動費。ただし実質的に毎月同じ時間数を確保している場合は、固定費として管理した方が資金計画の精度が上がる
レセコンや電子カルテのデータを使って月次で費用を固定費・変動費に仕訳し、損益分岐点を定期更新する習慣を持つ院は、経営判断のスピードに違いが出やすく、GA4やLINE公式の月額コストも、固定費か変動費かを最初に確定させてから管理台帳に落とし込むことで、コスト全体の見通しを立てやすくなる。
まずは、院の費用項目を書き出すことから始めたい。「患者ゼロでも発生するか否か」の列を加えるだけでよい。その一覧が損益管理の出発点となる。



