整骨院の月次収支管理を完全攻略する方法|設計から改善まで実務手順を解説
整骨院の月次収支管理は「フォーマットを作る」だけでは機能しない。保険・自費を分けた計上、労働分配率のモニタリング、異常値への即時対応という3段階の仕組みを設計して初めて、経営判断に使えるデータになる。
主要データ
- 柔道整復の施術所数:50,924か所(厚労省 令和6年衛生行政報告例、令和7年7月29日公表)
- 就業柔道整復師数:78,666人(厚労省 令和6年衛生行政報告例、令和7年7月29日公表)
- 柔道整復療養費 総額(令和3年度):2,867億円(厚労省 医療保険に関する基礎資料〜令和3年度の医療費等の状況〜)
- 青色申告特別控除(e-Tax等):65万円(国税庁 タックスアンサー No.2072)
月次収支の「数字」を見ているのに経営が改善しない院は何が違うのか?
同じ数字でも違いは大きい。毎月レセコンの売上データを見ながら「先月より増えた」「減った」と確認して終わる院長は少なくないが、それは月次収支管理そのものではなく、収入と支出を構造的に分解し、どの項目が利益を削っているのかを特定したうえで次月の行動まで変えてこそ、はじめて管理と呼べる。
見落としは静かに進む。保険収入が安定しているように見えても自費施術の構成比が下がり続けていたり、スタッフ増員後に労働分配率が急騰していたりすることは珍しくなく、月次でその変化を捉えられなければ異変に気づくのが四半期後となり、確認した時点ではすでに3か月分の損失が固まっている場合もある。
記録だけでは足りない。整骨院の月次収支管理でつまずく院の多くは「数字を見ている」のではなく「数字を残しているだけ」という状態にとどまりやすく、フォーマット設計、分析、改善アクションまでを一気通貫で整えてはじめて、月次収支管理は経営ツールとして機能し始めるのだ。
月次収支管理を始める前に何を揃えるべきか?
先に土台を固めたい。管理の仕組みを作る前に、入力元となるデータソースと記録ツールを確定しておかなければ、月が変わるたびに数字の拾い方がぶれてしまい、前月比較そのものの信頼性が下がるうえ、後から見返しても判断材料として使いにくくなる。
必要なデータソース
- レセコンの月次集計レポート(保険施術件数・点数・自費施術件数・売上が分かるもの)
- 通帳・決済明細(口座振込、クレジット、QR決済ごとに入金タイミングが異なる)
- 労務管理ソフトまたは勤怠記録(スタッフ別の実働時間・残業時間)
- 経費レシート・請求書(消耗品、家賃、光熱費、広告費、ソフトウェア利用料など)
- 療養費支払通知(健保組合・社保からの支払通知。入金は施術月の翌月以降になることが多い)
管理ツールの選択基準
選択は実務優先でよい。Excelまたはスプレッドシート(Google Sheets)は導入しやすく、すでに会計ソフト(freee、弥生クラウド等)を使っている院ならCSVエクスポートを活用して月次サマリーをスプレッドシートに連携させる方法が手間を抑えやすいため、レセコンがAPIやCSV出力に対応しているかは先に確認しておきたいポイントとなる。
電子化の意味も小さくない。電子帳簿保存法の要件に沿って領収書・請求書を電子保管している院では会計ソフトとの連携を整理しやすく、なお、国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除によれば、e-Tax等による電子申告または電子帳簿保存を行った場合の青色申告特別控除は65万円(2026年9月時点)であることから、帳簿を電子化する動機は十分にある。
Step 1|月次収支表の「型」はどう設計すべきか?
型で差がつく。月次収支表は、何を意思決定に使いたいのかを先に定めてから逆算して設計する必要があり、一般的な損益計算書の形式をそのまま流用すると、整骨院特有の保険と自費が混在する収益構造が埋もれ、日々の判断に使いづらい表になりやすい。
推奨する型は以下の4層構造だ。
層 | 項目 | 管理目的 |
|---|---|---|
収入層 | 保険収入 / 自費収入 / その他収入 | 収入構成比の変化を捕捉 |
変動費層 | 材料費 / 外注費 / 決済手数料 | 売上連動コストの管理 |
固定費層 | 家賃 / 人件費 / 保険料 / 広告費 / リース料 | 固定費率の管理 |
利益層 | 売上総利益 / 営業利益 / 経常利益 | 最終的な経営判断指標 |
分け方が肝心だ。教科書的な損益計算書は「売上-費用=利益」という単純な形で整理されるが、整骨院経営の実務では保険収入と自費収入を一本化すると自費売上の貢献度が見えにくくなり、施術件数が増えているのに利益が伸びない局面では、保険収入の単価低下と自費比率の低下が同時に起きていることも多いため、収入を分けて計上する設計が前提になる。
Step 2|保険収入と自費収入はどう分けて計上すべきか?
ここは外せない。保険収入と自費収入を分けて計上することは、整骨院の月次収支管理における基本動作である一方、日常業務が忙しい院ほど後回しになりやすく、結果として分析の精度を大きく落としやすい工程でもある。
保険収入の計上タイミング問題
入金月とのズレに注意したい。保険施術の療養費は施術月と入金月が一致しないことが多く、受領委任払いでは健保組合や社保からの入金が翌月以降になるのが通常であるため、月次収支表を入金ベースだけで作ると、実績と入金のズレが1〜2か月単位で表れ、当月の経営状態を捉えにくくなる。
実務では役割を分ける。発生ベース、つまり施術を行った月に収入計上する方法で収支表を作り、別にキャッシュフロー表を入金ベースで管理する二本立てにすると、前者は経営判断用、後者は資金繰り管理用として使い分けやすくなる。分けて考えることが重要だ。
自費収入の細分化
自費収入はさらに以下に分けて集計すると分析精度が上がる。
- 単発自費施術(初回・スポット)
- 回数券・コース販売(繰り越し分の消化額)
- 物販売上(テーピング、サポーター等)
集計ルールは統一したい。回数券の売上を販売時点で計上するのか、消化時点で計上するのかが院内でそろっていないと月ごとの数字がぶれやすく、一般的には消化時点、すなわち施術提供時で売上計上したほうが実態を追いやすい。
Step 3|固定費と変動費をどう月次で区分するか?
この区分が精度を左右する。費用の分け方は月次収支管理の中核であり、整骨院では固定費と変動費の比率が院の規模や保険・自費比率によって大きく変わるため、既製のひな型を流用するだけでは実態に合わず、院独自の分類基準を持つ必要がある。
固定費の代表項目と管理の注意点
- 家賃:毎月一定。居抜き物件でも共益費・管理費が変動する場合があるため、内訳を別列で管理する
- 人件費(基本給・社会保険料の使用者負担分):スタッフ数が変わらなければ固定費。賞与・残業代は変動費に分類する
- リース料・機器ローン:月額固定だが、複数機器のリース終了時期を把握しておかないと翌月の固定費が突然減少し、判断を誤る
- 広告費(月額固定契約):MEOツール、LINE公式の月額費用、ポータルサイト掲載料など
変動費として管理すべき項目
- 消耗品費(テーピング、包帯、コットン類):施術件数に比例して増加する
- スタッフ残業代・アルバイト時給
- クレジット・QR決済の決済手数料(自費売上に連動)
- スポット広告費(Googleリスティング、SNS広告の従量制出稿)
分類ミスは後で響く。ある都内の整骨院では、消耗品費を固定費として扱っていたため患者数が急増した月にも「消耗品超過」を把握できず、3か月後の棚卸しで初めてロスが見つかった事例があり、消耗品は施術件数との連動で見るという原則を崩さないことが重要になる。
Step 4|労働分配率と分単価を月次でモニタリングする方法は?
見る指標は絞ったほうがよい。整骨院の収益性を追ううえで重要度が高いのは労働分配率と分単価の2つであり、どちらも月次で継続して確認しなければ、スタッフ増員や施術メニュー変更が収益に与えた影響を正しく読み解きにくい。
労働分配率の計算と目安
労働分配率=人件費総額÷売上総利益×100
変化の方向を追いたい。整骨院では、院長1人+スタッフ1〜2人の小規模院なら50〜60%台が現実的なラインとなりやすく、スタッフを増員した月は一時的に数値が上がりやすい。そのため、増員後3か月は月次で追跡して正常化の流れを確認し、70%を超え始めた場合は施術単価か患者数のどちらかに課題が生じている可能性を疑うべきだ。
分単価の計算と使い方
分単価=月間売上÷月間総施術時間(分)
数字の読み方が重要になる。保険施術と自費施術では施術時間が異なるため、全体の分単価が低いときには「保険偏重で単価の低い患者対応が多い」のか、あるいは「自費メニューの施術時間が長すぎる設計なのか」を切り分ける必要があり、保険・自費別に分単価を出しておくと、どこがボトルネックなのかを把握しやすい。
背景構造も押さえておきたい。公的な統計データとして、厚生労働省 医療保険に関する基礎資料〜令和3年度の医療費等の状況〜によれば、令和3年度の柔道整復療養費総額は2,867億円であり、厚生労働省「令和6年衛生行政報告例」(令和7年7月29日公表)によれば施術所数は50,924か所であるため、全国の施術所が療養費を分け合う構造の中では1院あたりの保険収入に構造的な上限がある。だからこそ、分単価の引き上げ、つまり自費移行の推進は経営戦略として合理的な方向性といえる。
よくある月次収支管理の失敗と対処法
失敗1|療養費の入金遅延を考慮せずキャッシュが枯渇する
黒字でも油断はできない。発生ベースの収支表では黒字に見えていても、保険入金が翌月・翌々月にずれることで当月の口座残高が厳しくなることがあり、対処としては健保組合・社保別の入金スケジュールを一覧化した「入金予定カレンダー」を月初に更新し、キャッシュフロー表と照らし合わせる習慣を持つことが有効となる。
失敗2|広告費を「投資」として聖域化し費用対効果を検証しない
広告費も例外ではない。MEO強化、ポータルサイト掲載、SNS広告などは複数チャネルに分散しやすく、使った金額だけが先に積み上がりがちであるため、月次収支表では広告費をチャネル別に分け、新規患者獲得数と照合して1人あたりの集客コスト(CPA)を算出すると、判断を感覚ではなく数字に寄せやすくなる。
検証は毎月行いたい。「何となく続けている」広告費は、月次レビューのたびに確認対象へ入れるべきである。
失敗3|返戻・調整額が収支を歪める
後回しは避けたい。柔整審査会からの返戻や減額査定が発生すると、すでに計上した保険収入を後から修正する必要が生じるため、返戻発生月の処理を先送りにすると過去の収支データが実態から離れ、比較分析そのものが機能しにくくなる。
処理ルールを先に決める。返戻額を発生確認月に「マイナス収入」として計上するのか、別の「返戻管理台帳」で管理して月次収支へ反映させるのかをあらかじめ定め、院内で処理基準を固定しておくことが大切だ。
失敗4|月次レビューを一人で行い、盲点が解消されない
一人の確認には限界がある。院長だけでExcelを更新し、その数字を見返すだけでは異常値に気づけないことがあるため、月に1回、顧問税理士または経理担当スタッフとの定例レビューを30〜45分程度で設定し、前月比や前年同月比を声に出して確認する流れを組み込むと、見落としの減少につながりやすい。
第三者の視点は大きい。異常値の発見率は変わる。
月次収支管理で見落としやすい注意点は?
施術録の保存と帳簿の整合性
帳簿だけでは不十分だ。施術録は施術が完結した日から5年間の保存が義務づけられている(厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費について(通知)」)ため、月次収支と施術録の件数が一致しているかを定期的に照合することは、指導監査対策としても意味があり、収支上の患者数と施術録の件数に乖離があれば、計上ミスまたは施術録の漏れが起きている可能性を示している。
確認は早いほうがよい。原因特定を先送りにしないことが大切である。
賞与・一時的支出の平準化
単月の見え方に振り回されない。夏冬の賞与、設備の修繕費、研修費用など不定期に発生する支出は月次収支を大きく歪めやすいため、年間予算に組み込んだうえで毎月「引当金」として費用計上する平準化処理を行うと、月次の利益数値を安定的に比較しやすくなる。
判断材料を整えるためである。賞与が出た月だけ赤字に見える状態は、経営判断を鈍らせる。
消費税の申告区分の確認
税区分の確認も欠かせない。整骨院の保険施術は消費税非課税である一方、自費施術は課税売上に該当するため、課税売上比率が一定水準を超えると消費税の課税事業者になる可能性があり、自費売上を伸ばしていく局面では税理士と連携しながら毎月確認する体制を持っておきたい。
可視化してこそ判断できる。この点は、月次収支管理の中で「消費税区分別売上」を分けて集計してはじめて見えてくる。
次にやるべきこと|月次収支管理を「経営改善サイクル」に変える
大事なのは継続運用である。月次収支管理は表を作った時点ではまだ半分であり、「計画→記録→分析→改善アクション」の流れを毎月回す仕組みとして定着してこそ価値を持ち、単発の集計作業から経営改善サイクルへ変わっていく。
まず今月中にやるべきことは、以下の3つだ。
- 収支表のフォーマットを保険・自費分離構造で設計し直す(既存のものがあれば列を追加するだけでよい)
- 入金予定カレンダーを作成し、健保・社保別の入金サイクルを記入する
- 今月末に30分の月次レビューを税理士またはスタッフとの予定として確保する
最初から完璧である必要はない。フォーマットの完成度を上げることよりも、毎月同じルールで数字を拾い続けることのほうがはるかに価値が高く、完成度の高い表が3か月で止まるより、シンプルな表を12か月継続したほうが経営判断に使えるデータは蓄積される。だからこそ、まずは今週中にフォーマットを1枚作り、来月初日に数字を入れるところから始めたい。



