整骨院の年収はいくら?開業・勤務別の実態と年収を上げる判断軸

整骨院の年収は「開業か勤務か」「保険中心か自費中心か」「院規模」の3軸で大きく変わる。勤務柔道整復師の平均年収は300万〜400万円台が中心だが、開業院長は経営判断次第で1,000万円超も現実的な射程に入る。

主要データ

  • 就業柔道整復師数:約7万4,000人(厚生労働省 衛生行政報告例、令和4年度)
  • 接骨院・整骨院施術所数:約5万件(厚生労働省 衛生行政報告例、令和4年度)
  • 柔道整復師の平均給与(常勤):約370万〜400万円(厚生労働省 job tag、2024年)
  • 柔道整復療養費総額:約2,300億円規模(厚生労働省 柔道整復療養費検討専門委員会 資料、令和5年度)

年収の二極化が加速している—なぜ同じ国家資格者でこれほど差がつくのか?

まず押さえたい。開業院長の年収が500万〜1,500万円の幅に広がる一方で、勤務柔道整復師の年収は300万〜450万円程度に集中しており、この差を生む主因は施術者個人の技術差というより、収益の取り方と固定費の持ち方を含む経営構造の違いにある。

保険依存度が高い院ほど療養費の逓減制や審査強化の影響を受けやすい。反対に、自費施術・物販・回数券を組み合わせた収益構造を持つ院では、同じ施術者数であっても客単価・LTV(患者1人あたりの生涯売上)が2〜3倍になる現実が見て取れる。

見るべきは現在地だけではない。今の年収額だけを追っても判断を誤りやすく、どの構造で収益が生まれ、その構造が来年以降も維持できるのかまで把握してはじめて、年収の伸びしろは読める。

施術所数は約5万件に達しており、開業数には飽和感がある一方で、廃業・事業譲渡も年間数千件規模で発生しているため、入れ替わりの激しさそのものが年収格差を押し広げているともいえ、収益構造を意図して設計した院は残りやすいが、そうでない院は療養費単価の変化に影響されやすい。

勤務柔道整復師の年収実態—昇給の天井はどこにあるのか?

まず全体像だ。勤務柔道整復師の給与水準は、厚生労働省 衛生行政報告例(令和4年度)の就業者数データと照合すると、業界全体で約7万4,000人が就業しており、その大半が整骨院・接骨院に勤務するため、常勤者の平均年収は370万〜400万円程度で推移している。

経験年数別の目安は下表の通りだ。

経験年数

月給目安

年収目安

昇給の主要因

1〜3年目

22万〜25万円

280万〜320万円

施術技術・患者対応力

4〜7年目

26万〜30万円

330万〜390万円

リピート率・客単価への貢献

8年目以上(主任・院長代理)

30万〜38万円

380万〜480万円

マネジメント・分院管理

分院長・複数院管理

38万〜50万円

480万〜650万円

経営貢献・売上責任の有無

焦点は上限にある。勤務者の年収は個人の努力だけで決まるわけではなく、院全体の売上規模と人件費配分に強く連動しており、たとえば月の施術売上が200万円の院でスタッフ人件費に使える労働分配率が55〜60%なら、施術者1人に割ける原資には自然と限界が生まれるため、昇給を望むなら自院の売上規模と労働分配率を把握したうえで話す必要がある。

開業院長の年収はどのように決まるのか?

基本は収支だ。開業院長の年収は「役員報酬または事業所得」として設計され、売上から材料費・家賃・人件費・保険料・設備費などを差し引いた手残りが院長の取り分になるため、開業1〜3年目で売上と年収を混同すると、見かけの数字ほど資金が残らず資金繰りを圧迫しやすい。

開業院長の年収帯と、それを実現する院の構造を整理する。

年収帯

月商目安

主な収益構造

施術者数の目安

400万円以下

80万〜120万円

保険中心・1人施術

院長1人

400万〜600万円

120万〜200万円

保険+自費一部・スタッフ1〜2名

2〜3名

600万〜900万円

200万〜300万円

自費比率30〜50%・回数券・物販導入

3〜4名

900万〜1,500万円

300万〜500万円

自費中心・分院展開・LTV設計済み

4名以上または分院複数

注目すべきは600万円前後の境目だ。ここまでは院長自身の施術量に年収が左右されやすいが、600万円を超える水準では仕組み化と人材活用の比重が急に大きくなり、自費移行・スタッフ育成・レセコン活用による業務効率化を別々にではなく並行して進められるかどうかが、その後の伸びを分けやすい。

年収を左右する4つの判断軸

先に軸を持つこと。開業院長が年収を意図して引き上げたいなら、以下の4軸を個別に見ていくだけでなく、自院の現状と照らして優先順位を組み替える必要があり、打ち手を増やすよりも先に判断基準をそろえたほうが、改善余地はむしろはっきり見えてくる。

判断軸1:保険比率と自費比率のバランス

まず収益源だ。保険(受領委任)施術は療養費の逓減制が効くため、患者数を増やしても分単価が逓減していき、月300件を超えた辺りからは施術1件あたりの収益が目に見えて下がる構造になっている。

実務ではバランス設計が鍵になる。年収800万円を視野に入れるなら自費比率30%以上の設計は通り道になりやすく、保険施術で来院の入口を作りながら、自費メニューで客単価と分単価を押し上げるハイブリッド型のほうが、現場では組み立てやすい。

自費移行で難しいのは価格設定だけではない。既存の保険患者を自費へ案内する場面では、「保険が使えなくなった」と受け取られると離院につながりやすいため、施術内容の違いと価値を先に伝え、本人が納得して選べる流れを整えておくことが前提になる。

判断軸2:患者1人あたりのLTV(生涯売上)

見落とされやすい指標だ。新患獲得コスト(MEO広告費・チラシ・紹介促進費用など)は、患者が1回しか来なければ回収できないため、LTVを高めるためのリピート率管理が年収に直結する最重要指標になる。

初回から2回目への来院率は60〜65%程度が一般的な水準とされるが、回数券の導入、LINE公式での定期的な情報発信、施術後の次回予約促進を組み合わせた院では2回目リピート率が80%を超えるケースもあり、この差は月次では小さく見えても、年間売上に置き換えると数百万円単位の開きになりうる。

判断軸3:労働分配率と施術者の生産性

採用は万能ではない。スタッフを雇えば売上が増える可能性はあるが、院長の年収まで同じように増えるとは限らず、労働分配率(人件費÷売上)が60%を超えると、手元に残る利益は一気に薄くなる。

採用前に見るべきなのは「施術者1人あたりの月間売上」であり、現状で1人当たり50万円以下なら、採用を急ぐより既存スタッフの生産性向上と自費単価の引き上げを先行させたほうが年収への影響は大きく、採用コストと教育コストは短期間で回収できる性質のものではない。

判断軸4:立地・物件コストと損益分岐点

固定費の重さ。家賃は固定費の中で最も削減が難しく、月商の10〜12%以内に家賃を収めることが整骨院経営の基本原則だが、都市部の居抜き物件では15%を超えることも珍しくない。

居抜き物件は初期投資を抑えやすい一方で、前テナントの設備状態や構造設備基準への適合確認を後回しにすると、開設前の是正工事で想定外の出費が生じやすいため、保健所への開設届の前に設備要件を確認し、必要な工事費まで含めて損益分岐点を見積もる視点が欠かせない。

院規模・状況別の年収モデルはどう違う?

モデル選びが出発点だ。自院の状況に合った年収モデルを選ぶことが、実行可能な経営計画を組み立てるうえでの起点となる。

1人施術・小規模院(院長のみ)

上限は比較的見えやすい。施術時間に明確な上限がある以上、年収400万〜600万円が現実的な射程になりやすく、そこを超えるには自費単価の引き上げかスタッフ採用が必要になるため、まずは1人で月商150万〜180万円を安定させてから次の段階へ進むかを判断したい。

中規模院(スタッフ2〜3名)

ここで役割が変わる。院長は施術比率を下げ、経営とマネジメントに比重を移す時期であり、院長自身の施術比率が70%超のまま規模拡大を進めると、教育と管理が追いつかず採算が崩れやすいため、年収600万〜900万円を狙う局面では「施術者」としての働き方を少しずつ手放す必要がある。

分院展開中・多店舗運営

伸びしろはある。分院展開は年収1,000万円超を狙える構造だが、同時にリスクも大きく、分院1院につき月商が安定するまでの損失補填期間(一般的に3〜9ヶ月)を自己資金で吸収できるかどうかが最初の関門になるうえ、Googleビジネスプロフィールの分院ごとの管理、MEO対策、スタッフ採用と育成を並行して回す運営負荷も軽くはない。

自費中心・セルフメディケーション特化型

難度は高い。保険施術を持たず完全自費で運営する院は集客の難易度が上がる一方、単価と利益率を確保しやすく、施術1回の単価が5,000〜15,000円の幅を持たせられれば月商200万円を少人数で達成できる可能性はあるが、SNS・指名検索・口コミによる集患基盤の構築に1〜2年かかる前提で資金計画を組む必要がある。

年収が上がらない院が陥りやすい落とし穴

新患数だけでは足りない。よく「新患を増やせば年収が上がる」と語られるが、その前提にはリピート率と客単価の設計が含まれており、新患獲得に広告費を投じても2回目のリピート率が50%以下なら、獲得コストを回収しにくい構造のままになる。

落とし穴は以下の3つに集約される。

  • 売上=年収と混同している:月商200万円の院でも、家賃・人件費・材料費を除くと院長の手取りは50万〜60万円というケースは珍しくない。売上と利益と年収の区別を明確にして管理する必要がある。
  • 保険依存から抜け出せない:受領委任の施術だけで経営を続ける限り、療養費の単価・算定ルールの変更に年収が直撃される。厚生労働省の柔道整復療養費検討専門委員会では、施術回数・部位数の適正化議論が継続しており、保険依存の収益構造はリスクとして認識しておく必要がある。
  • 採用を年収増加の手段だと誤解している:スタッフを雇うことで院長の施術負荷は下がるが、年収が自動的に上がるわけではない。採用後に人件費増を上回る売上増を実現できるかの試算なしに採用を決めると、年収が下がる。

年収を本気で上げるための最終チェックリスト

まずは棚卸しだ。以下の項目を自院に当てはめて確認してほしく、単に「できている」「できていない」を仕分けるだけでも次の打ち手は見えやすくなるため、感覚で判断するのではなく、現状を数字と運用の両面から把握するところから始めたい。

  • 自院の月商・粗利・院長手取り(役員報酬または事業所得)を月次で把握できているか
  • 初回から2回目へのリピート率を数値として把握しているか(目安:60%以上)
  • 自費施術メニューが存在し、月商に占める自費比率が把握できているか
  • 患者1人あたりの月間来院回数・LTVを計算したことがあるか
  • 労働分配率(人件費÷売上)が60%以内に収まっているか
  • 家賃が月商の12%以内に収まっているか(都市部の場合は15%以内を上限として意識しているか)
  • Googleビジネスプロフィールの口コミ返信・MEO管理を定期的に行っているか
  • 施術者1人あたりの月間売上を把握しており、採用拡大の判断基準として使っているか

最後に整理したい。「できていない」項目が3つ以上あるなら、年収の伸び悩みは施術力そのものより経営管理の未整備によって起きている可能性が高く、チェックリストの多くを埋めてから分院展開・大型採用・広告投資を検討するほうが順序としては自然であり、先に見直すべき点はまだ残っている。

この記事は「整骨院経営の完全ガイド|売上・自費移行・リピート率改善」の関連記事です。経営・売上に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。