柔道整復師と理学療法士は、資格の法的根拠・保険の種類・施術できる対象が根本から異なる。採用・連携・自費メニュー設計で迷う前に、この3点の違いを正確に押さえておくことが判断の出発点になる。

主要データ

  • 就業柔道整復師数:約7万3,000人(厚労省 衛生行政報告例、令和4年度)
  • 就業理学療法士数:約20万人超(厚労省 衛生行政報告例、令和4年度)
  • 施術所(接骨院・整骨院)数:約5万件(厚労省 衛生行政報告例、令和4年度)
  • 柔道整復療養費総額:年間3,000億円規模(厚労省 柔道整復療養費検討専門委員会、2024年)

「採用しようとして初めて気づく」——2つの資格が混同されやすい理由

見落としやすい点がある。整骨院の院長が「PTも置けたらいいな」と求人票を出した途端、履歴書の職種欄を前にして手が止まることがあり、柔道整復師(以下、柔整師)と理学療法士(以下、PT)は、外から見れば似た仕事に映る一方で法的な立場は大きく異なるため、混同されやすい背景には「身体に触れる」という共通動作への先入観がある。

採用時ほど差が出る。整骨院でPTを雇っても、そのPTは柔整師として療養費を請求できない。言われれば当然だろう。とはいえ、採用後になって「保険算定に使えると思っていた」という行き違いが起こることは珍しくなく、採用・連携・メニュー設計のどの場面でも、この前提を最初に共有しておかないと、その後の判断基準がずれていく。

根拠法と主な業務範囲——何が「できる」のか?

まず法が違う。2つの資格の差は、根拠法を並べるとすぐ見えてきて、柔整師は柔道整復師法(昭和45年)に基づいて骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷(肉離れ)という5種の外傷に対する非観血的(切らない)施術を行い、医師の指示なしに施術できる独自の権限を持つ一方で、その対象はあくまで「外傷」に限られている。

PTの位置づけは別だ。PTは理学療法士及び作業療法士法(昭和40年)に基づく資格であり、「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため」に運動・物理的手段を用いるとされているため、業務は医師の指示のもとで行うことになる。病院・リハビリ施設を主な活躍の場とし、外傷だけでなく脳卒中後の麻痺、術後リハビリ、呼吸器疾患など幅広い病態に関わる点も、柔整師との大きな違いである。

項目

柔道整復師

理学療法士

根拠法

柔道整復師法(昭和45年)

理学療法士及び作業療法士法(昭和40年)

主な業務対象

骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷(5種外傷)

身体障害・術後・脳疾患後など幅広い病態

医師の指示

原則不要(骨折・脱臼の初回処置を除く)

必要(医師の指示のもとで実施)

独立開業

可能(接骨院・整骨院)

不可(診療所・病院等に所属が原則)

保険請求の種別

健保組合・国保に対する療養費請求(受領委任)

診療報酬(理学療法料)+自費リハビリ

施術所の名称

接骨院・整骨院

施設内リハ室、自費リハビリ施設など

保険の「種類」が根本的に違う——療養費と診療報酬を混同しないために

仕組みそのものが別である。保険請求の流れは2つの資格で完全に分かれており、柔整師の保険請求は療養費として健保組合・協会けんぽ・国保といった医療保険者に対して受領委任払いで請求される一方、審査は柔整審査会が担い、返戻や増減点のルールも療養費特有の枠組みで運用されている。

PT側は異なる。PTが医療機関で行う保険算定は診療報酬であり、厚労省が告示する点数表(運動器リハビリテーション料など)に基づく。算定主体は医療機関であって、PTは算定の実務を担っても主体にはなれないため、整骨院でPTを雇用した場合、そのPT業務を療養費に組み込むことはできず、自費メニューとして切り分けて設計する必要がある。

ここは数字も重い。厚労省の柔道整復療養費検討専門委員会の資料では、近年の療養費総額は年間3,000億円規模で推移しているが、審査強化に伴って一件あたりの単価が締まる傾向も続いているため、この流れの中でPT採用による自費リハビリメニューを収益の柱に据えようとする整骨院が増えている一方、保険請求との住み分けを曖昧にしたまま進めると、保険外施術の広告規制や受領委任取扱いの通知に触れるおそれが出てくる。

整骨院でPTを雇用したとき、何ができて何ができないのか?

線引きは明確だ。PTが整骨院に勤務しても、柔整師として療養費請求ができないのはもちろん、「PTとして」診療報酬を算定する権限もない。整骨院は医療機関ではない。そのため、診療報酬の算定主体にはなれない。

では活かし方は何か。PTのスキルを活かした自費の運動指導・リハビリプログラムの提供である。自費メニューとして設計し、適正な価格で患者に提供すること自体は問題ないが、広告表現には注意が必要であり、あはき・柔整の広告ガイドライン(令和7年2月18日 医政発0218第1号)では施術所が行える広告の範囲が示されているため、PT資格を前面に押し出した訴求が「誤解を生む広告」と受け取られる場合もある。

表示は丁寧に扱いたい。院の看板・ウェブサイト・チラシで「理学療法士在籍」と表記すること自体は禁止されていない。だが、その後に続く施術効果の表現に断定が入ると、景表法と広告ガイドラインの両面で問題化しうるため、資格表示とサービス説明の境界を曖昧にしない運用が重要になる。

業務内容

整骨院勤務の柔整師

整骨院勤務のPT

療養費請求(受領委任)

不可

診療報酬算定

不可

不可(整骨院は医療機関外)

自費での運動指導・リハビリ

可(柔整師の業務範囲内で)

可(PT資格に基づくスキルを活用)

独立した施術所の管理者

可(接骨院・整骨院)

不可

患者への運動療法プログラム作成

可(外傷後のリハビリ指導として)

可(自費サービスとして)

院の状況別——柔整師・PT、どちらを優先すべきか?

答えは一つではない。採用でも連携でも、「自院がどのフェーズにいるか」で判断は大きく変わるため、同じ資格であっても優先順位は固定されず、以下では院の状況別に判断軸を整理していく。

保険中心の小規模院(1〜2名体制)

この段階では順番が大事だ。療養費請求が収益の主軸なら、まず追加すべきは柔整師であり、PT採用を先に進めると即戦力として療養費算定に加われないため、収益への反映までに時間差が生じやすい。PTの採用は、保険対応が安定して回り始め、自費メニューを次の柱として育てる段階に入ってから検討するほうが進めやすい。

自費比率40%超を目指す中規模院(3〜5名体制)

ここで問われるのは設計の精度だ。この段階では、PTとの連携が自費メニューの質を高める有力な手段になりうる一方で、「PTが来れば自費が増える」という単純な話ではなく、PT採用に先立って自費メニューの単価・プログラム設計・患者説明のトークを整えておかなければ、在籍しているのに自費売上が伸びないという停滞が起こりやすい。

分院展開中・複数院を持つ院(グループ経営)

先に押さえるべきは管理者である。管理者要件を満たす柔整師の確保が先になり、接骨院の管理者は柔整師でなければならず、分院ごとに管理者を置く必要があるため、PTを管理者に据えることはできない。グループ全体の収益設計の中でPT活用を考える場合でも、各院の管理者ポストを柔整師で埋めた後の検討になる。

鍼灸との併設院

複雑になりやすい場面だ。鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の資格を持つスタッフが在籍する院では、施術の役割分担が入り組みやすく、PTを加える場合は、誰がどの患者にどのメニューを提供するかを明文化しておかないと、スタッフ間の業務範囲の認識ズレが患者対応の質の低下につながりやすい。

柔道整復師理学療法士違いにおける院の状況別——柔整師・PT、どちらを優先すべきか?の様子

採用面接・連携交渉で院長が使える確認事項リスト

動く前の整理が欠かせない。現場でのチェックポイントとして、以下を面接・商談前に確認しておきたい。これらを曖昧にしたまま採用や連携を進めると、後から役割を組み替える必要が生じて院内の雰囲気が不安定になりやすく、採用判断そのものの良し悪しとは別のところで摩擦が起こる。

  • その人物が持つ資格は柔道整復師か、理学療法士か、あるいは両方か(ダブルライセンスの有無)
  • 療養費請求の実務経験(レセプト作成・返戻対応・審査会への対応経験)はあるか
  • 自費メニューの設計・患者説明・プログラム立案の経験があるか
  • 整骨院での勤務経験があるか(病院リハビリとは患者層・業務フローが異なる)
  • 採用後の業務を「保険算定補助」として期待していないか(PTへの誤解が最も多い落とし穴)
  • 自費メニューの価格設定・販売促進に本人が関わる意欲があるか
  • 広告表現・SNS発信における資格表記の制限について理解しているか

多くの院長がやりがちな3つの失敗パターン

失敗の形は似通う。教科書的には「2つの資格の違いを理解してから採用する」と整理されるが、整骨院経営の実務では採用後に違いを知るケースが少なくなく、典型的な失敗は3つにまとまりやすい。

失敗1:「PTなら保険請求でも使える」と思い込む

原因は法的理解の不足にある。柔道整復師法に基づく療養費請求は、柔整師資格を持つ者にしか認められない。PTがどれだけ優秀でも、療養費算定の戦力にはならない。PTを雇い入れ、月初の療養費請求業務を任せようとして初めて「できない」と気づく院は、都市部の中規模院でも見られる。

失敗2:PTを採用したのに自費メニューが育たない

採用だけでは形にならない。「PTが来れば自費が自然に増える」という期待は実務とずれており、問題はPT個人よりも院側のメニュー設計と患者説明にある。自費でリハビリプログラムを提供するには、価格・期間・成果指標を事前に患者へ説明する仕組みが必要になるため、その仕組みがないまま採用だけ先行すると、PTが施術はしていても単価が上がらない状態に陥りやすい。

失敗3:広告表現でPTの存在を過度に前面に出す

訴求には注意がいる。「理学療法士在籍の整骨院」という表現は患者の関心を集めやすい一方で、踏み込み方によっては誤認を招く。整骨院は医療機関ではないため、「医療機関に準ずるリハビリが受けられる」という印象を与える表現は広告ガイドラインに触れるおそれがあり、さらに施術効果の断定と結びつくと景表法上の優良誤認も問題になりうるため、広告文の最終確認は、あはき・柔整広告ガイドライン(令和7年2月18日 医政発0218第1号)を参照した上で進めたい。

自院に当てはめるための判断チェックリスト

  • 現在の収益構造は「療養費中心」か「自費中心」か、明確に把握しているか
  • 採用を検討している人物の資格種別(柔整師/PT/ダブルライセンス)を確認したか
  • PTを採用する場合、担当させる業務が「自費メニュー」として設計されているか
  • PT採用後の自費メニューの価格・期間・プログラム内容が決まっているか
  • 分院がある場合、各院の管理者要件(柔整師)を満たしているか
  • 院のウェブサイト・チラシでPT資格の表記を使う場合、広告ガイドラインの確認を済ませているか
  • スタッフ間で「誰がどの患者にどのメニューを提供するか」の役割分担が文書化されているか
  • PTの採用コスト(給与・教育・メニュー開発期間)を自費収益で回収できる試算が立っているか

院長が今すぐ判断できる「3つの軸」で整理する

判断材料は絞れる。ここまでの内容を、実際の意思決定で使いやすい3つの軸に整理して見ていこう。

軸1:保険依存度——療養費比率が高い院では柔整師の増員を優先したい。療養費の審査が年々厳格化する中、算定の正確さと対応速度が収益に直結するため、PT採用はその基盤が整ってから検討するほうが流れを作りやすい。

軸2:自費メニューの設計完成度——自費メニューがまだ「アイデア段階」の院でPTを採用しても、能力を十分に活かす場を作りにくい。メニューの枠組みが7割以上固まってから採用を動かすほうが、役割分担も価格設計もぶれにくくなる。

軸3:管理者要件の充足状況——これは院の規模拡大に直結する制約である。接骨院の管理者は柔整師でなければならないため、分院展開を視野に入れるなら柔整師の採用・育成が先になり、PTをどれだけ雇っても管理者ポストを埋めることはできない。

結局は順序の問題でもある。ベテランの院長はこう言う。「PTを雇うのは悪くない。ただ、保険が回ってから話だ」。つまり、資格の違いを理解することは出発点ではあるが、それだけでは足りず、自院の収益構造と成長フェーズに合わせて採用の優先順位を組み立てることが、実務上の判断を左右する。